大阪地検特捜部に逮捕、起訴され、無罪が確定した不動産会社「プレサンスコーポレーション」元社長の山岸忍氏(62)が国に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は立件の判断自体は不合理ではないとして賠償責任を否定したが、捜査にあたった検事の取り調べ手法を非難し、検察改革の「機能不全」にも言及した。 今回の訴訟では、捜査段階で山岸氏との共謀を認めた元部下に対する田渕大輔検事の取り調べが最大の焦点となった。 口頭弁論では2回にわたり実際の取り調べ映像が法廷で再生された。田渕検事は机をたたき「反省しろよ。少しは」「検察なめんなよ。命かけてるんだよ、俺たちは」と約50分間にわたり元部下を罵倒。翌日も「プレサンスの評判をおとしめた大罪人」「損害を賠償できます? 10億、20億じゃ済まない」と追及した。 「不穏当だった。全く非がないとは思わない」。証人出廷した田渕検事自らもそう認めた一連の取り調べについて、この日の判決は「検事の意に沿う供述を無理強いしている。著しく不適切」と断じた。 もっとも、元部下が弁護人との接見後に供述調書に署名していたこともあり、山岸氏の関与を認めた供述調書が「信用できる」と評価し、山岸氏を立件した特捜部の判断自体に違法性があるとは認めなかった。 賠償責任は否定したものの、判決は検察組織における問題の根深さも指摘している。特に「制度自体が有効に機能しているのか、疑義を生じさせかねない」と強い表現で疑問を呈したのが、検察改革の一環として取り入れられた総括審査検察官の役割だった。 総括審査検察官は、検察内部において、いわば弁護人の目線で証拠を精査する「横からのチェック」を担う。平成22年に発覚し検察組織を根底から揺るがした現職検事らによる押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件を受け、「検察の在り方検討会議」が導入を提言。特捜事件では捜査から起訴まで検察のみで完結してしまうため、これを牽制(けんせい)することが期待された。同会議が検察に欠けているものとして挙げた「引き返す勇気」の具体化策の一つだったといえる。 プレサンス事件で、総括審査検察官は田渕検事が机をたたいたり、怒鳴ったりした場面があったことを事件の主任検事だった蜂須賀三紀雄検事に報告してはいた。だが蜂須賀検事は実際の取り調べ映像を確認しなかったとみられ、山岸氏の立件を目指す特捜部の歯止めとはならなかった。