10年前、20年前、30年前に『FRIDAY』は何を報じていたのか。当時話題になったトピックをいまふたたび振り返る【プレイバック・フライデー】。今回は10年前の’15年3月20日号掲載の『川崎・中1殺害事件 8人組の1人がついに語った「A君と犯人の本当の関係」』を紹介する。 家庭にも学校にも居場所がなく、いつも一緒に群れていた少年たち。そんな少年たちの間で起きた凄惨な殺人事件だ。(《》内の記述は過去記事より引用。年齢・肩書はすべて当時のもの)。 ◆全裸の状態で複数人から暴行 ‘15年2月20日の午前6時すぎ、神奈川県川崎市内の多摩川河川敷で近くの中学に通うA君(当時13)の遺体が発見された。死因は出血によるショック死。遺体は全裸で靴も履いておらず、首に多数の切り傷や刺し傷があった。身体には複数のアザがあり、複数人で殴る蹴るの暴行をくわえた上に何度も刃物で刺されたと思われるむごたらしいものだった。 2月27日にA君殺害の容疑で逮捕されたのは、A君の遊び仲間だったX(18)と、彼の中高の同級生で自称・職人のY(17)、1学年下で別の中学出身のZ(17)の3人の少年だった。2月19日の夜に3人で酒を飲んでいたところ、ZのLINEにA君から連絡が入り、合流することになったという。 《「4人は河川敷へ向かうと、XはA君を裸で川で泳がせた。XとYでA君に殴る蹴るの暴行を加え、カッターナイフを使ってXがA君を殺害したと見られています。逮捕の決め手は、Zの供述。 県警は先にZに任意の事情聴取を行っていた。衣服を焼くためにライターオイルを買うZの映像が店の防犯カメラに残っており、レシートの記録とZの供述内容がガッチリ合った。そこからXの逮捕に踏み切ったんです」(捜査関係者)》 事件発覚当初、メディアではこんなストーリーが報じられていた。Xは札付きの不良で15人規模のグループのリーダーだった。A君はグループを抜けたいと思っていたが、暴力への恐怖で抜けられず、見かねたA君の友人たちがXに抗議。それを根に持ったXが犯行におよんだ……。だが、真相はかなり違ったものだった。 Xのグループで、A君ともよくつるんでいた一人だったという少年は次のように語った。 《「僕たちは、X君のことを不良だと思ったことは一度もありません。ワルぶっているところはありましたが、自宅の部屋にはアニメのフィギュアやポスターをびっしり貼ってるような、ただのゲームとアニメ好き。普段からカッターナイフを持ち歩いていたなんて報道がありましたが、そんなの見たことないです」》 XとA君が出会ったのは’14年の年末ごろ、地元のゲームセンターだったという。 《「二人とも『ラブライブ!』というアニメが好きで、その話をしているうちに仲良くなったみたいです。グループというか、いつも遊んでいたのは5人です。X君とZとA、それにAと同じ中学の生徒が2人。他にどんなに集まっても8人です。一緒にゲームをしたり、アニメの話をするだけです」(前出少年)》 ◆「すれ違い」から生まれた憎悪 事件の伏線となったのが’15年1月14日にXがA君に暴行した事件だ。横浜に遊びに出かけたXたちは酒を飲み、泥酔してA君の顔に青アザができるほど殴りつけたのだ。 《「X君は、確かに以前からお酒を飲むと人が変わるところがありました。1月にAに暴力を振るったときは『さすがにヤバいな』と思いました。ただ、X君がAを殴ったのは、後にも先にもそのときだけです。X君は反省したようで『これからはお前たち(後輩)の前では、酒は飲まない』と言っていました。その後も、二人は普通に遊んでいましたよ。Aも『X君、X君』 といままで通り接していました」(同前)》 だが、ここに別のS中学のグループが関わってきたことで状況が変わった。A君と彼らは「街で会えば一緒に遊ぶ」関係だったが、このグループが1月下旬に顔にアザを作ったA君を見つけて、5~6人がXを捕まえて土下座をさせるような形で謝罪させたのだという。これは決してA君が望んでさせたものではなかったようだ。 それだけでは済まなかった。Xに土下座をさせたのとは別のS中学のOBを中心とするグループが、Xの自宅に押しかけたのだ。彼らは以前にもXに「ヤキを入れた」ことがあった。Xの母親が玄関先で「留守だ」と言ったものの、1時間近く押し問答になり、ついには警察を呼ぶ騒ぎにまでなっていたのだ。 かつて自分にヤキをいれたS中学OBのグループにつけ狙われたと知り、事件直前のXはかなり追い詰められていた。前出の少年によると、家に閉じこもって怯えていたそうだ。 《「S中学のグループがX君の友だちのLINEを使って、X君を誘い出そうとしていたんです。それで、X君は次々と周りの友だちのLINEをブロックし始めた。だから、最近は僕もまったく連絡を取れていなかったんです。怖くて『夜中しか外に出られない』と話していたようです。X君が『チクられた』とAを恨んでいたのは、『あのとき一度謝ったのに、なんで』という思いだったんじゃないでしょうか」》 そして2月20日の午前2時。飲まないと誓ったはずの酒に酔い、XはA君に暴行をくわえた。それが次第に「エスカレートした」(Xの供述)ことで、凶行におよんでしまったのだ。 Xは取り調べに対して「Aには取り返しがつかないことをした」と話していたという。 ◆ネットでさかんに行われた「犯人探し」 X、Y、Zの判決公判は’16年の2月から行われ、主犯格のXは殺人罪で懲役9年以上13年以下の不定期刑が下された。残るYとZは傷害致死罪で、4年以上6年6ヵ月以下、6年以上10年以下の不定期刑がそれぞれ言い渡された。1人は出所したが、残る2人は現在も服役中だ。 事件は少年犯罪であり、事件が起きた’15年当時は容疑者の少年3人の名前が報じられなかったことが議論を呼んだ。このことは後に少年法が改正される動きへとつながっていった。一方でネットでは「犯人探し」がさかんに行われ、真偽不明のままに、無関係の人物の顔写真や住所、家族構成などをさらす行為が頻発して問題となった。 この事件に関わったX、Y、Z、そしてA君らはいわゆる「不良少年」ではなく、ガチの不良にはなり切れない少年たちだった。それぞれ家庭や学校などにいづらさを抱え、何となく夜の街で過ごすうちに知り合った間柄。事件はそんなコミュニティの中で、ちょっとした誤解からのすれ違いが暴走したあげくの悲劇だったのかもしれない。