トランプ版「赤狩り」が始まった――リベラル思想の温床である大学教育を弾圧せよ

私が子供の頃、共和党員でエール大学出身の祖父は、共和党を教育レベルの高いスーパーエリートの党だと評した。この見解は今やとんでもなく時代遅れだ。当時の共和党員が一貫して民主党員より高学歴だったことは統計的事実だが、非大卒の共和党支持者が増えるのと同時期に、4年制大学卒の有権者は民主党に大移動していった。【サム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)】 ミシガン州立大学のマット・グロスマン教授とボストン大学のデービッド・ホプキンズ准教授は『学位による二極化』という著書の中で、「学歴格差の拡大が学歴と党派性の伝統的関係を急反転させ、学位を持つ白人民主党員と学位を持たない白人共和党員の分断を生んだ」と論じている。 それによると、過去3回の大統領選挙におけるある州の有権者の投票行動で最も顕著だったのは、大学卒以上の学位を持つ住民の比率によって投票先が変わることだった。高等教育に対する保守派の反発の背景には「二重の怒り」があると、グロスマンとホプキンズは指摘する。まず、高等教育の壁が労働者階級から魅力的な経済的機会を奪っていることへの憤り、さらに民主党的価値観を推進し一枚岩的にリベラル色が強い大学への怒りだ。 そしてついにトランプ新政権は、弾圧の矛先を米大学界にも向け始めた。3月8日、ニューヨークのコロンビア大学で昨年春に親パレスチナの抗議活動を主導したとして元大学院生が逮捕され、同大学への助成金が一部取り消された。米国務省は留学生のための奨学金の助成停止も発表している。 〈次世代のリベラル化を止めるため〉 アメリカの高等教育は世界大学ランキングでもノーベル賞など革新的成果の面でも抜きんでた存在だ。だから私の国外の友人たちは、ひどく困惑している。アイビーリーグの名門出身の超エリート2人(トランプ大統領はペンシルベニア大学経営大学院、バンス副大統領はエール大学法科大学院)の政権が、コロンビア大学を弾圧し、優秀な学生の獲得に直結するフルブライトやギルマンのような奨学金を停止したのだから。 大学や教育団体が主張するように、支出された連邦政府の助成金の大半は国内にとどまる。アメリカの大学で学ぶ留学生が米経済にもたらす価値は500億ドル以上だ。 ただし、純粋な政治的計算の観点から見れば、トランプ政権の大学への弾圧は極めて理にかなっている。エリートの巣窟をポピュリズムの棍棒でたたいてみせれば、政権支持層は喜ぶ。大学の力をそぐことで、民主党的な政策の推進と次世代のリベラル化に歯止めをかけられる。さらに大学では少数派の黒人やヒスパニック系を支持層に取り込み、共和党を完全な階級ベースの政党に転換する効果も期待できる。 だがエリート教育機関の側も、厳格な基準を守り、自らの使命に忠実であり続けることが大学の価値だと分かっている。司法省が私の所属するジョージタウン大学に対し、カリキュラムを変更しなければ学生がインターンや就職の際に不利な扱いを受けかねないと脅したとき、法科大学院の学部長はこう反論した。 「合衆国憲法修正第1条が大学の独自カリキュラムとその提供方法を決定する自由を保護していることを考えれば、この脅しの憲法違反は明らかである。(この大学は)異なる信仰・文化・信念を持つ人々の真剣かつ持続的な議論を通じて知的・倫理的・精神的理解が促進されるという原則の下に設立された。私たちにとって、この原則は道徳的・教育的な必須条件だ」 アメリカを代表する名門大学の大半はこの国の独立前から存続してきた。戦争や疫病を生き延びたのだから、この難局も何とか乗り切るはずだ。

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