8月6日の広島平和記念式典会場周辺で中核派活動家らが反戦・反核を叫ぶ大音量の集会やデモ行進を巡り、広島市が昨年、原爆ドーム周辺や式典会場を含む平和記念公園全体の入場を規制したのは行き過ぎで、表現の自由などを侵害するとして、広島弁護士会が規制に反対する会長声明を発出した。行政による対応が憲法違反と断じる厳しい内容だが、安全対策が求められる式典主催者の市は戸惑いを隠さない。 ■市側は「職員の安全を考慮」 「〝事故〟は承知している。だとしても昨年の規制はちょっと範囲が広すぎるのではないかと」 戦後80年の8月6日を半年以上前に控えた今年1月末、弁護士会の平和・憲法問題対策委員会所属の弁護士ら3人は、式典業務を主管する市民活動推進課の担当者に声明文を手渡した。 事故とは、令和5年の平和記念式典で対応していた市職員に集団で暴行したとして、中核派活動家の5人が暴力行為法違反(集団的暴行)罪で逮捕、起訴された「事件」を指す。現在、広島地裁で公判中だ。 市はこれを受けて昨年、公園全体の入場を規制。午前5時から同9時までは利用者に公園外への移動を要請した。さらに、金属探知機で式典参列者に対する検査を行うなど警備を強化した。 市の公園条例などに基づき、規制中は拡声器、プラカードの持ち込みや大きな声を発するなどの行為も禁止。規制にあたっては、市側の弁護士との協議も重ねた上で「職員の安全も当然考慮した」(担当者)という。 ■表現、信教の自由侵害と主張 声明はこうだ。「一定の規制があることを否定するものではない」としつつ、平成7年3月の最高裁判例(泉佐野市民会館事件)を引用。表現の自由の制限が許されるのは、単に危険な事態が発生する可能性があるというだけでは足りず、客観的事実に基づき「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」と主張する。 令和5年の集団暴行事件では、最高裁が判示した危険が予見されているとは「到底いえない」。必要最低限の規制ではなく、憲法21条が保障する表現の自由を侵害するとの論理だ。 規制に伴い、原爆供養塔前にまで立ち入れないため、例年行えていた「祈り」もままならず、憲法20条に反し、信教の自由も侵害するという。