老老介護の末に殺人事件も 「介護する側も要支援」77%の調査結果

統合失調症を患う姉を30年以上にわたる介護の末に殺害した罪で逮捕、起訴され、執行猶予付き判決を受けた男性がいる。姉は81歳、男性は77歳で「老老介護」の状態だった。逮捕後の検査で、男性は事件当時、幻視や抑うつ症状が表れるのが特徴の「レビー小体型認知症」を患っていたことが判明した。 男性は2024年6月、東京都内の自宅で、同居する姉の首をマフラーで絞めて殺害したとして逮捕された。男性によると、姉は30代で統合失調症と診断され、一時は入院していた。01年から2人で暮らすようになり、訪問看護の利用は月に1回で、家でのトイレや入浴の介助、食事の準備は男性が担った。 逮捕後、男性が認知症を患っていたことが判明。事件前から、思考力の低下や不眠、抑うつなどの症状があったが、男性は「介護疲れやストレスだろう」と思っていたという。 男性自身も誰かの支援や介護が必要な状態だった。自宅には姉のケアマネジャーやヘルパーも出入りし、男性とやりとりを重ねていたが、その異変に気づいた人は周囲に誰もいなかった。 東京地裁立川支部は今年1月、男性に懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)を言い渡した。 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、介護世帯に占める老老介護の割合は、2022年に過去最高の63・5%(前回調査時の19年比3・8ポイント増)に達した。 厚労省が同年、全国の市区町村を対象に実施した家族の介護に関する委託調査(回収率61・1%)では、自治体の77・3%が「介護する家族も認知症などで支援が必要」と回答した。 また、自治体の46・9%が「交通の便や健康の課題で来庁相談が難しい」、12・4%が「医療機関などとの連携が取れていない」と回答し、老老介護世帯が必要な支援に結びついていない実態が明らかになった。 高齢者の介護問題に詳しい佛教大の新井康友教授(高齢者福祉論)は「日本には介護者を支援する法律がなく、本来支援が必要な介護者が埋もれてしまっている」と指摘する。 00年にスタートした介護保険制度では民間企業の参入が進んだものの、新井教授は「高齢者介護に対する行政の介入が弱まり、民間任せになっている。行政の窓口に介護のノウハウを持つ専門家を置くなど、積極的に相談を受けたり支援をしたりする体制づくりが急務だ」と話した。【岩崎歩】

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