不法残留ベトナム人に実刑判決 「刑罰が問題解決になるのか」 長崎地裁佐世保

不法残留したなどとして、入管難民法違反の罪に問われたベトナム人の男性(27)に長崎地裁佐世保支部は先月、懲役1年2カ月の実刑判決を言い渡した。裁判を傍聴していると、制度のはざまで追い詰められた男性の苦悩が見えてきた。 初公判などによると、ベトナム人男性は2017年に来日し、関東で技能実習生として働いていたが、逃亡。在留期間が切れて不法残留していたところを21年、逮捕された。懲役1年、執行猶予3年の判決を受け、東京出入国在留管理局に収容されたが22年3月、仮放免となった。 仮放免とは、収容を一時的に解除し、外での生活を認める仕組み。原則、住居がある都道府県内にいなければならず、入管施設の呼び出しに対して出頭義務がある。 だが、就労可能な在留資格がないと就労は禁止されており、男性は同年7月に出頭したのを最後に失踪。母への仕送りや帰国費用を稼ごうと同胞のネットワークを頼りに産業廃棄物処理などを営む長崎市の会社へたどり着いた。在留カードを求められ、交流サイト(SNS)でベトナムにいる闇業者とつながり、偽造カードを作成。男性は24年11月、再び逮捕された。 裁判で男性の弁護士は仮放免制度を批判し、「基本的人権擁護の観点から刑を科すべきではない」と主張。取材に対し「仮放免ではまともに働けないのに帰国費用は自前で用意しないといけないのは酷。彼は入管難民法違反以外の犯罪は何もしていない。刑務所に入れても何の解決にもならない」と話した。 一方、就労可能な在留資格がないと、就労は認められないとする出入国在留管理庁は「働けないなら身元保証人や母国の家族、本人の資産で帰国の準備をしてほしい」との見解を示す。 長崎大多文化社会学部の河村有教准教授(刑事法)は外国人の収容問題について「収容から仮放免の認定まで、入管組織内部だけで判断が決まるのは中立性に欠けるのではないか」と指摘。「仮放免制度もより就労しやすくするなど改善すべき点はあるが、(判断までの過程が)ブラックボックス化している入管庁の在り方を見直すのが一番抜本的な改善策となる」として、中立な立場の司法の関与を提言する。 在留外国人を支援する日本カトリック難民移住移動者委員会の川口昭人長崎教会管区代表は「男性は1人で孤軍奮闘したのだろう。私はいつも対象者たちに『逃亡する前に相談しなさい』と言っている。一度逃亡し事件化すると支援が難しくなる」と呼びかけている。相談はカトリック俵町教会(電0956・22・4285)。

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