「人質司法に終止符を」 冤罪や身柄拘束の被害者が国賠提訴「被疑者や被告人にも人権があります」東京地裁

安易な身体拘束を認めている刑事訴訟法の規定が憲法に反するとして、裁判中の被告人ら4人が3月24日、国に対してそれぞれ110万円(計440万円)の損害賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。 弁護団は「この国に長きにわたりはびこっている人質司法の運用とそれを生み出した法律の違憲性を問う訴訟だ」と強調する。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介) ●「人質」のように身柄を拘束され、自白を強いられる状況 人質司法とは、被疑者や被告人が無罪を訴えたり黙秘したりすればするほど「人質」のように身柄を拘束され、自白を強いられる状況となっている日本の司法制度を批判的に捉えた表現。 原告は、強制わいせつの疑いで逮捕されたあとに暴行罪で起訴され、今年1月に無罪判決を受けた浅沼智也さんや、詐欺事件で逮捕・起訴され現在6年以上も勾留され続けている被告人など4人で、いずれも保釈を何度も求めながらも裁判所に却下された経験を持つ。 ●原告、勾留中は「ずっと孤独な闘い」 原告側は、刑訴法の条文が抽象的な表現にとどまっていることから、実際は十分な根拠がないケースでも身体拘束や接見禁止が多用されている現状があるとし、長期間の身体拘束を受けることで社会的な地位や仕事、家族、健康などが奪われていると指摘。 これら刑訴法の条文が奴隷的な拘束を受けないことを保障した憲法18条などに反して無効であると主張している。 提訴後に記者会見を開いた原告の浅沼さんは、逮捕されたあとの日々について、「身体拘束されている中で、『自分がやってもいない無実のことを認めれば出られるんじゃないか』『もう早く出たい』という思いがずっとありました。ずっと孤独との闘いでした」と振り返ったうえで、次のようにうったえた。 「僕はこうやって前に出て発言をしていますが、人質司法で認めてしまったケースも多いと思います。だからこそ、早く人質司法を終わらせなきゃいけない。被疑者や被告人にも人権があります。人権を侵害することは本当にあってはならないと思います」 弁護団の高野隆弁護士は「裁判が始まるまで勾留されることはあくまで例外的な場合で、それが法律の建前だが、実態はそうなっていない。その理由は、刑訴法の規定自体が非常に漠然としていて、手続きがフェアではないから。二重に理不尽にできあがってしまっている。それを問うのが今回の訴訟の最も革新的なところだと思う」と述べた。 ●原告が問題視する「曖昧な刑訴法の条文」 勾留や保釈に関する条文は、以下のように刑訴法の60条、89条、90条に定められている。 第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。 一 被告人が定まつた住居を有しないとき。 二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。 一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。 三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。 六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。 第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。 また、身柄を拘束された被疑者や被告人との面会を制限する「接見禁止」に関しては、刑訴法81条に規定されている。 第八十一条 裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第三十九条第一項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。

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