『僕らの未来』(11)、『フタリノセカイ』(21)、『世界は僕らに気づかない』(22)など、トランスジェンダー男性であるというアイデンティティを反映した独創的な作品作りで国内外から大きな注目を集める飯塚花笑監督の最新作『ブルーボーイ事件』が、2025年秋に公開されることが決定。このたび、本作よりスタッフ&キャストコメント、ティザービジュアル、特報が解禁となった。 1960年代後期、東京オリンピックや大阪万博で沸く、高度経済成長期の日本を舞台に、「性別適合手術」が違法とされた1960年代の事件から着想を得て描く本作。国際化に向け、売春の取り締まりを強化するなか、性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けた通称ブルーボーイたちを一掃し街を浄化するため、検察は手術を行った医師を逮捕する。手術の違法性を問う裁判には、実際に手術を受けた証人たちが出廷した。かつて実際に起きた“ブルーボーイ事件”をもとに、飯塚監督が当時の社会状況と事件について徹底的に調査し、裁判での証言を決意したトランスジェンダー女性サチを主人公に物語を構想した。 「この物語を描くには当事者によるキャスティングが絶対に必要」という監督の強い意志のもと、主人公サチ役の起用にあたっては、様々な経歴を持つトランスジェンダー女性たちを集めたオーディションが行われた。多くの候補者の中から主演に選ばれたのは、ドキュメンタリー映画『女になる』(17)への出演経験を持つ中川未悠。中川は「サチを演じさせていただくからには、一人でも多くの人に希望をもって生きてもらいたい!と思いながらお芝居に取り組みました。ブルーボーイ事件は事実に基づいたお話しなので、より身近に感じていただきやすいストーリーになっています。登場人物一人一人の想いがたくさん詰まった、愛のある作品です!まだまだ差別や偏見はありますが、私はこの作品を通じて誰もが幸せになる権利があることを伝えたいです」と出演に際してコメントした。 また、裁判の証人となるサチのかつての同僚たちを演じるのは、これが映画初出演となるドラァグクイーンのイズミ・セクシーと、連続テレビ小説「虎に翼」での演技が反響を呼んだシンガーソングライターで俳優の中村中。またブルーボーイ役として真田怜臣、六川裕史、泰平ら、注目の若手俳優たちが出演する。サチに証言を依頼する弁護士の狩野役を錦戸亮が、彼と敵対する検事役を安井順平が演じるほか、前原滉や山中崇ら実力派俳優たちが脇を固める。黒沢清、深田晃司、沖田修一、原田眞人、大友啓史ら日本を代表する監督たちの作品を数々手がけてきた芦澤明子が撮影監督を務め、いま以上に性的マイノリティの人々に対する激しい差別が横行していた1960年代の日本で、自らの尊厳と誇りをかけて司法と、そして世間と闘った女性たちの物語を、見事な演出力で纏め上げる。 いまだ差別や偏見がはびこる現代社会にこそ見るべき物語をぜひ劇場で目にしてほしい。 ■<スタッフ&キャストコメント> ●飯塚花笑(監督) 「『ハタチ過ぎたら誰もがみんな自殺だわね…』これは『ブルーボーイ事件』の映画化にあたり、資料の山に埋もれていたときに出会った1950年代のゲイバー(当時はゲイバーと表現されていたお店で)に出入りしていた、一人の名もなき性的マイノリティの言葉です。嫌に昭和的な口調と、ルポ本に添えられたスナップ写真がこの言葉に重みを付け加え、いまもずっと私の胸のなかに居座っているように感じます。この映画でトランスジェンダー当事者の俳優を主演に起用し、オリジナル作品として取り組むことを心に決め、走り始めてから6年余り。映画が完成したいま思うのは、ずっとこの日本の社会の中に存在していたのに、無かったことにされて来た声たちが私を突き動かしていたのだということです。『ずーっとここにいたんだよ…』この映画が広く、そして深く皆様の心へ届きますように。この物語は私たちの物語であり、“貴方”たちの物語です」 ●中川未悠(サチ役) 「サチ役を演じさせていただきました、中川未悠です。初めてのお芝居、初めての映画出演、初めてお会いする人たちばかり。全てが私にとって初めてで、不安が大きかったですがキャストの皆さん、スタッフの皆さんに優しく接していただいたので凄く楽しい現場でした。サチを演じさせていただくからには、一人でも多くの人に希望をもって生きてもらいたい!と思いながらお芝居に取り組みました。ブルーボーイ事件は事実に基づいたお話しなので、より身近に感じていただきやすいストーリーになっています。登場人物一人一人の想いがたくさん詰まった、愛のある作品です!まだまだ差別や偏見はありますが、私はこの作品を通じて誰もが幸せになる権利があることを伝えたいです。私は今回サチに出会い、サチの言葉に勇気をもらえました。観て下さる方々も勇気や希望をもらえると思います。是非、映画館でご覧ください」 ●遠藤日登思(プロデューサー) 「『オリジナル脚本で映画を作ろう』という呼びかけに集まった企画の中に『ブルーボーイ事件』がありました。約6年前のことです。当時、私はこの事件のことを知りませんでした。企画書や資料を読み、日本の性別適合手術の歴史を知っていくなかで、50年以上前、確実に存在し証言台に立った3人のトランスジェンダーのことを想像しました。そして、飯塚監督が当事者の一人として感じてきたこと、当事者の役は当事者に演じて欲しいという強い思いを聞き『映画にしなくては』と思いました。とはいえ、当事者の方のキャスティングを実現させるのは簡単なことではなく手探りのオーディションを進めました。同業者からは『難しいことをしてるねぇ』と言われたこともしばしば。途中コロナ禍で挫折しかけた時も並走してくれたプロデューサー陣、脚本チーム、そしてオーディションに集まっていただいたトランスジェンダーの皆さんにあらためて感謝します。感想は人それぞれでも、観ていただければ必ず熱の伝わる映画が完成したと思います」 文/鈴木レイヤ