柔道授業で生徒重傷、2012年1月市内の中学で/川崎

柔道授業で生徒重傷、2012年1月市内の中学で/川崎
カナロコ 2012年10月16日(火)23時45分配信

 川崎市立中学校でことし1月、体育の授業で柔道に取り組んだ当時1年生で13歳だった男子生徒が首や頭を強打し、重傷を負う事故が発生していたことが16日、分かった。生徒はその後、激しい頭痛を伴う脳脊髄液減少症と診断され、6〜8月はほぼ寝たきりの状態だった。本年度から武道の必修化が始まる中、柔道への安全対策があらためて問われそうだ。

 学校側や生徒の保護者によると、事故は1月27日に発生。2人1組の乱取り稽古中、大外刈りを掛けられた生徒が、畳に首と頭を強打した。2人の生徒の体重差は約1・5倍あった。柔道有段者の男性教諭が1人で指導していた。

 生徒は頭痛や首痛を訴え、同日中にコンピューター断層撮影(CT)検査を受けた。異常は見つからなかったものの、その後も頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状に悩まされ、学校を休んだり早退・遅刻を余儀なくされたりしたという。

 2年生に進級後は学校を休むことはほぼなくなったが、6月になって急激に頭痛が悪化。磁気共鳴画像装置(MRI)検査で脳脊髄液減少症が判明し、入院・手術を経て、夏休み明けまで学校を休んだ。

 学校側は生徒の病状が悪化した後の7月、市教育委員会に事故を報告。事故の責任も認め、生徒と保護者側に謝罪している。校長は体格差への配慮が足りなかった点などを挙げ「細心の注意は払っていたが、指導という点で学校側に瑕疵(かし)があった」としている。

 市教委はすでに、今回の事故の調査・分析に着手。安全対策上のマニュアルなどを早急に取りまとめ、各校に配布する方針という。

 全国柔道事故被害者の会の村川義弘副会長は「文部科学省は安全対策に関する指針を出しているが、具体的な対策は、各地域や学校に丸投げ。通り一辺倒の対策だけでは解決にならない」としている。

 文科省は、脳脊髄液減少症が疑われる事故が発生した際に適切な対応を求める通達を、先月5日付で全国の自治体などに出していた。

◆安全対策徹底求め必修化 母「とにかく再発防止」
 「願うのは、とにかく柔道事故の再発防止」。男子生徒の母親は自らの望みをそう語った。本年度から始まった必修化の現状に疑問が拭えないためという。柔道の美徳ばかりが強調されていないか。安全対策は本当に万全なのか。今回の事故を教訓に議論が深まり、誰もが安全に柔道を楽しめる環境になることを願っている。

 事故後、明るく前向きな息子は様変わりしてしまったという。長らく学校も休んだため成績は下降。寝たきりの生活が続き、歩くだけで疲れてしまうほど体力面でも影響が出た。

 「事故によって息子から奪われたことが多過ぎて。まだそれらを取り戻すには至らず、日々親子で悔しい気持ちでいっぱい」

 事故後の学校側の対応に誠意は感じている。「息子のため、できる限りの支援をしようと努力してくれている」

 むしろ事故は、指導体制の確立が必ずしも十分ではないまま必修化への流れをつくった国や学習指導要領に原因があると感じている。

 「そういう意味では学校も被害者の面がある」

 事故を受け、学校側は柔道の指導計画の見直しに着手した。事故の状況を分析し、実戦形式での立ち技の禁止や大外刈りの禁止、体格差を考慮した組み合わせとするなど、学校独自の安全対策を打ち出した。

 「よくできた計画だと思う」と母親。同時に「これが日本中に広まれば、柔道の授業が本来あるべき素晴らしいものになるだろうし、そうなってほしい」。

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