熱血ニセ教師、歪んだ職業愛 6度挑戦で採用試験合格→免許は偽造

熱血ニセ教師、歪んだ職業愛 6度挑戦で採用試験合格→免許は偽造
産経新聞 2015年2月10日 15時5分配信

 ■休日返上、自腹で部活遠征…15年

 顧問をしている部活の遠征費を私費で賄い、休日返上で生徒の指導にあたっていた熱血先生はニセ教師だった。大阪府内の中学校に無免許で15年間勤務したとして偽造有印公文書行使罪に問われた男(46)に対し、大阪地裁は1月、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。「仕事にやりがいを感じ、うそをつき続けてしまった」。男は公判で謝罪を繰り返しつつ、揺るがぬ“職業愛”も吐露。傍聴人からは「免許さえ持っていれば理想の先生なのに…」との声が漏れた。

 公判供述や検察側の冒頭陳述によると、男は長崎県出身で大阪府内の教育系大学に進学。平成3年に教育実習を経験したのを機に、中学校の社会科教諭になる夢を抱くようになった。

 しかし、介護のボランティア活動にのめりこむうちに学業がおろそかになり留年。6年に「卒業に必要な単位取得が難しい」と中退した。教員免許状は大学で必要な単位などを取得し、卒業すると都道府県教委から交付されるため、教師になる夢はこの時点で絶たれたはずだった。

 卒業後、男はアルバイトをしながら大阪府教委の採用試験を繰り返し受験する。在学中を含め6度目の挑戦となった10年度の試験で合格を勝ち取った。

 府教委に免許状を提出すれば教師として正式採用されることから免許状の偽造を決意。大学の後輩に原本を貸してもらい、氏名や本籍地、生年月日、免許番号を書き換え、コピーを府教委に提出した。担当者は偽造を疑わず、男は30歳の春に教師に採用された。

 以降、45歳になるまで東大阪市内の4つの市立中学校で勤務。社会科を担当し、最後の学校では女子バスケットボール部の顧問や生徒指導係も務めた。

 だが、「教員免許更新制度」で初めて免許の更新時期を迎えた昨年、免許状の偽造が発覚。失職扱いとなり、更新手続きの際に偽造免許状を行使したとして在宅起訴された。

 ◆「いい先生なのに」

 なぜ男はそこまで教職にこだわったのか。

 男は大学時代、身内や周囲に「教師になる」と公言し、大学を中退した事実も伏せていた。公判に出廷した先輩にあたる男性によると、「(男は)生真面目な半面、社交性がなく思い詰めるタイプ」。応援してくれる人々に挫折を言い出せず、見栄(みえ)のために受験し続けた側面もあるという。

 一方で、男には純粋な教師へのあこがれもあったようだ。教師になってからは夜遅くまで翌日の授業を準備し、休日返上で指導にあたるなど「熱心な先生」として生徒や保護者から信頼を集めた。

 特に部活への思い入れは強く、学校が負担しない遠征費を給与から捻出し、チームを地域の強豪校に育て上げた。実績を買われ、不正発覚当時、要職の一つである進路指導担当を任されていた。

 男は公判で教壇に立った15年間を振り返り、「子供の成長していく姿を見ることがうれしく、やりがいを感じていた」と供述。「自分自身がうそをつきながら、うそをついてはならないと生徒に道徳を指導したことは大変申し訳なかった」と謝罪し、給与の一部返還も明かした。

 公判を傍聴していた30代の男性は「生徒の目線に立ち、生徒のために一生懸命尽くす先生という印象を受けた。罪に問われるのは当然だが、良い先生だけに生徒が気の毒だ」と話した。

 ◆「今度は人の役に」

 とはいえ、無資格で15年間も教壇に立ち続けた男の行為は重大犯罪だ。敬い慕っていた教え子の心のダメージも計り知れない。

 1月21日の判決は「教育職員としての地位を守るための自己中心的な犯行」と指弾。「教員免許状に対する公共の信用を傷つけ、学校関係者や社会に大きな影響を及ぼした」として懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡し、確定した。

 「今度はきちんと(介護ヘルパーの)資格を取得します。人の役に立つことをして残りの人生を過ごしたい」。介護施設に再就職したという男は、法廷で再起への思いをこう語った。

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