小誌スクープで連載中止
小池一夫と日経のドンの「深い仲」
週刊文春 2009年6月18日
「あれだけ大々的にスタートさせたのに、一回目ですぐ休載とは前代未聞。『本当に情けないよね』と社内で話題になっています」
日経新聞社員がこう嘆息するのは、五月三十日に「日経初の劇画連載」として始まった小池一夫氏原作の「結(ゆ)い 親鸞」である。
小誌は前号で「日経に劇画連載 小池一夫『第二の小室』で訴えられる」として、小池氏の著作の権利が、ある実業家と角川書店に二重売買されている疑惑を報じた。すると日経新聞は電光石火のごとく、小誌発売日と同じ六月四日朝刊で「作者小池一夫氏の都合により当面、休載します」と発表。連載第二回はおあずけとなった。
日経新聞関係者が内情を明かす。
「休載発表の当日、社内的には『六月三日に小池氏側からの申し出により休載を決定した』という説明がありました。ただ、実際には日経の側も、『小池氏にもし他にトラブルがあったら困る』と、連載継続に腰が引けていたそうです」
さらに日経を悩ませる“責任問題”がある。
「若手社員は最初から『U-29という若い読者向けの欄なのになぜ劇画?』と冷たい反応だったので動揺してませんが、焦っているのは上層部でしょう。よりにもよって、杉田会長肝いりの企画が頓挫してしまった。面子は丸潰れです」(同前)
実は、小池一夫氏の連載は、代表取締役の杉田亮毅氏が持ってきたというのだ。杉田会長といえば、〇三年、不祥事で退任した鶴田卓彦前会長の後をうけ社長となった新たなる「日経のドン」。インサイダー取引で社員逮捕という不祥事にもかかわらず会長の座につき、金融不況で広告収入が大幅ダウンするなか、この四月には、大手町に皇居を見下ろす三十一階建ての新社屋を完成させた。
いったい、小池氏とはどういう関係なのか。
「映画関係者、出版関係者を交えた『ふぐの会』という少人数の会合のメンバーです。今年一月のその席で、小池氏が杉田氏に『結い 親鸞』の企画を売り込んだことがきっかけで、日経の現場の人間が小池氏と会うことになり、連載がスタートしたと聞いています」(会合の関係者)
連載「結い 親鸞」は両氏の深い“結い(縁)”があればこそだったのだ。
著作権と使用権を二重に売り渡し、数億円を得たと推定される小池氏だが、さらに驚くべき話を関係者が明かした。
「小池氏は三年ほど前、自身が教授を勤めていた大阪芸術大学に、ゴジラの3D映画化という企画を持ち込み、『出資すれば、大阪芸術大学が新しいことに取り組んでいるとPRできる』といって一億円を引き出したのですが、映画はいまだに完成していません」
『子連れ狼』など多くの原作を手がける小池氏だが、さすがに「ゴジラ」シリーズとはなんの関係もない。この企画は、映画プロデューサー奥平謙二氏が小池氏に持ち込み、それに乗っかったのだという。
「ところが、小池氏が半分の五千万円を渡した段階で、奥平プロデューサーが音信不通になった。最終的には、大阪芸大が出資した一億円は、小池氏が教授を退任する際に、功労金という名目で相殺することで決着がついたのです」(同前)
小誌が奥平プロデューサーを直撃すると、「ノーコメント」。大阪芸大も「お答えすることはありません」と口を閉ざすが、一億円の功労金とは太っ腹である。
それとは別に、小池氏は大阪芸大に対して、過去の原作の直筆原稿を売却していたという“銭ゲバ”ぶりも明らかになっている。
渦中の小池氏に訊ねた。
「ゴジラ3D映画化の件については自分たちが被害者だが、大阪芸術大学との間では解決済みである。ただ、映画プロデューサーに渡した五千万円については、まだ先方から返却されていないので、今後取り返す努力をしようと思っている」
と、自分のポケットに入ったままの残りの五千万円がどうなっているかについては説明を避けた。
また、志半ばで中断となった日経の新連載には、
「今年はじめの会食の席で杉田会長に企画について話したのがきっかけだと認識している。私にとって親鸞聖人を漫画で描くことは作家人生において最も重要な仕事だと思っているので、このような形で休載となったことを非常に悔しく思っている」
との回答があった。
ところが、日経新聞に杉田会長との経緯について訊ねたところ、
「小池氏は数人で年に二、三回、会食する会合メンバーのひとりです。当社会長との個人的な付き合いはありません。(連載は)通常の手続きに従って社内で検討し、決めました」(日本経済新聞社広報グループ)
と、ずいぶん温度差のある答えが返ってきた。
トラブルメーカーを紙面に連れ込んだ、会長のトップダウンを「通常の手続き」と言ってのける日経新聞社もどうなの!?
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