「暴力に頼らない指導力を」 祖母井サンガGM
京都新聞 2013年1月30日(水)23時9分配信
部活動での相次ぐ体罰や柔道女子の暴力問題を受け、暴力による指導を否定し、欧州のスポーツ事情に詳しいJ2京都サンガFCの祖母井秀隆ゼネラルマネジャー(GM)に考えを聞いた。
桜宮高にしろ、女子の柔道にしろ、手を出して威圧するような指導は欧州ではあり得ない。ヒステリックとしか思えない。弱い立場にある子どもや女性に、権力と暴力でプレッシャーをかける指導が果たして許されるのか。
私は若い時、ドイツに10年間いて教師の資格を取った。1年半ドイツの学校で体育の授業をし、夕方からサッカーチームの指導をしていたが、学校の中で先生が生徒をたたくのを見たことがない。ドイツでは暴力を振るえば教師の資格を失う。
ドイツと日本は同じ第2次世界大戦の敗戦国。「体育」が強兵につながると考えられ、戦争に悪用された歴史を持っている。戦前に用いていた「身体の教育」を意味する言葉を、ドイツは戦後「スポーツ」に変えた。半面、日本は「体育」が残っていて、子どもは先生の独裁的な指導に黙って耐える。そんな雰囲気ができると口答えした人は集団の中で根性なしとなってしまう。これは非常に怖いこと。力で抑えることを人間が覚えたら極端な話、戦争がまた起こる。体罰や暴力の問題を考える前に、平和とは、人権とは何かという根本をもっと考える必要がある。
相手を傷つけたり威圧をしても、指導者が愛情を持っていたらいいと言われるが、それに頼らない指導力を追求しないといけない。子どもや選手は「育てる」のではなく「育つ」ものなのです。「育てる」となると、指導者もそれにがんじがらめになる。暴力が起こるうちは監督中心。選手中心で物事を進め、サポートし、彼らが「育つ」環境を整理して与えられるか。上から押さえつけるやり方だと、指導者以上の人間に育たないと思う。
体罰はあってはならない。急にはなくならないだろうが、犠牲者を出さないための議論をしないと。体罰や暴力を受けたという声が多く世に出た方がいい。人を思いやり、協力することは日本のすばらしさとして外国人にも評価されているが、暴力による指導は(欧州の)国際感覚から言って理解されないことを知っておくべきだ。
うばがい・ひでたか 大体大卒。読売サッカークラブやドイツでプレーした後、ケルン体育大(ドイツ)でコーチ学を学ぶ。1995年から2006年まで千葉で育成部長とGMを務める。07年からフランスリーグ2部のグルノーブルのGMとなり、1部昇格を果たした。11年から現職。61歳。