中国産業スパイ、米で暗躍 「国家ぐるみ」摘発、せめぎ合い
産経新聞 2015年7月23日 14時45分配信
中国からの産業スパイに、米国がいらだちを強めている。IT関連を中心に、中国の政府や軍が関与しているとされる大型産業スパイの摘発が相次ぎ、米当局は脅威が増しているとして、スパイ防止を担う精鋭部局を再編成するなど、「厳戒態勢」に入った。一方で、中国が米製品などを狙い撃ちにしたとみられる中国内のサイバー規制に米国側は反発している。
◆「アバゴ事件」の衝撃
5月16日、米ロサンゼルス空港で、中国から到着した天津大学の張浩教授が逮捕された。米司法省は張教授を含む中国人6人を産業スパイなどの罪で起訴したと発表した。
張教授は南カリフォルニア大大学院で通信向け素子を研究した後、2005年に米国を代表する半導体メーカーの一つのアバゴ・テクノロジーに入社。09年に退社して帰国した。
当局や米メディアによると、張教授はアバゴから無線通信技術に関する機密情報を盗んだ疑いが持たれており、この情報を使った製品を生産・販売する合弁会社を天津大と設立。製品を企業や軍へ供給する契約を結んだとされる。
事件を扱うサンフランシスコ地区のメリンダ・ハーグ連邦判事は「シリコンバレーなどの米企業が開発した機密性の高い技術は、外国政府の支援を受けた組織的な盗難の被害を受けやすい」と指摘。中国の政府や軍が事件に関与しているとの見方を暗に示した。
一方、中国側も即座に反応した。外務省の洪磊(こうらい)報道官は記者会見で「中国は商業上の秘密を盗む活動に断固反対する」と強調。当局や軍の関与を否定した形だ。
ただ、中国人や中国系米国人による産業スパイは後を絶たない。14年5月には、太陽光パネルなどを手がける米企業の通信ネットワークに侵入し機密情報を盗んだとして、中国の軍関係者らが訴追された。13年には、中国が軍の近代化を進めるため「国家が支援する産業スパイを利用している」とした報告書を米国防総省が発表している。
◆防諜強化へ新ポスト
特にアバゴ事件は近年でも突出した大型産業スパイ事件とみられ、米司法省のカーリン司法次官補は米通信社ブルームバーグの取材に「脅威は変化した」と指摘。国家的スパイのターゲットは冷戦時代は国家関係者だったが、「今はスパイの関心の大半は民間部門だ」とも明かした。その上で司法省が防諜強化に乗り出し、産業スパイ犯罪の訴追を統括する高官ポストを新設したほか、民間企業に連邦機関や検察当局との連携を促したという。
6月下旬にワシントンで開かれた米中戦略・経済対話で、ルー米財務長官は米企業から機密情報を窃取している中国からのサイバー攻撃を「中国政府が支援している」と批判した。
◆サイバー規制に物議
一方で米国は、中国が国内向けにはサイバー規制を過剰に広げているとの懸念を強めている。
中国は昨年12月、銀行業界でのIT機器を対象とした新規制の導入を公表した。サイバーセキュリティーを強化するため、銀行などが調達するパソコンのほぼ全てとスマートフォンやタブレット端末の約半数について「安全で管理可能」であることを求めている。
だが、この定義があいまいで中国当局に拡大解釈されかねないとの指摘が出ている。ロイター通信によると、米政府は、中国の新規制が国内と海外の企業の差別扱いを禁じる世界貿易機関(WTO)ルールに違反していると懸念を表明。米国のビジネス団体も反発している。
サイバー攻撃など産業スパイの手口も高度化、複雑化する中、米国と中国の互いの国益とメンツをかけたせめぎ合いが続きそうだ。