<周南高2自殺2年>調査、息子に寄り添って 解明願う遺族
毎日新聞 2018/7/29(日) 14:22配信
2016年7月に山口県周南市で県立高校2年の男子生徒(当時17歳)が列車にはねられ亡くなってから26日で、2年が経過した。生徒を自殺に追い詰めた背景の解明は十分とは言えず、遺族は今も真相を知ろうと手を尽くしている。三回忌の法要を終えた母親は「息子の思いに寄り添い、声なき声をすくい上げてほしい」と訴え、県の検証委による再調査を見守る。【真栄平研】
生徒は両親と姉の4人家族の長男。母親は「みんなを喜ばせるのが好きな、優しい子だった」と生前の生徒の話になると思わずほほ笑む。料理が好きで、自分で調理器具を買ってクッキーを焼いて家族に振る舞うことも。学校へ持たせる弁当は毎日完食で「帰宅後に弁当箱を開けるのが楽しみだった」。夜は家族でお笑い番組を見て、生徒と姉が芸人のまねをしては家族を笑わせた。母親は、どこにでもある一家だんらんの風景を懐かしむ。
生徒は亡くなる1週間ほど前の7月18日から部員不足の野球部の練習に助っ人として参加した。野球は初心者同然。思い返せば、その頃から生徒から笑顔が消え、食欲も減っていったと母親は話す。
亡くなる2日前の夜。母親が自宅の居間で「なんでそんな不機嫌そうな顔をしてるん」と尋ねると、生徒は「俺だっていろいろあるんじゃあ」と大声を上げ、居間から出ていった。火に油を注ぐと思い、追いかけてまで問いたださなかった。それが親子の最後の会話となった。母親は「息子の変調に自分が気付けなかった」と自責の念で言葉を詰まらせる。
県教委の第三者委が昨秋まとめた最終報告書には、生徒の性格に自殺の原因の一端があるかのような指摘があり、がくぜんとした。その一方で、再三求めた野球部の練習の実態など事実調査は不十分のまま。母親は「性格、人格に問題があるから人は死に追いやられるのか。遺影の中でほほ笑む息子に対し、余りにもむごい仕打ちです」と唇をかむ。「息子が弱かっただけ」などと言われるのは耐え難かった。親は何を言われても良いと、再調査を求めた。
再調査中の検証委は、野球部での指導が適切だったか、いじめや指導が生徒の精神状態にどんな影響を与えたのかなどの解明に力を入れる。このため、既に卒業した同級生らへの聞き取りやアンケートだけでなく、スポーツ科学や精神医学の専門家の意見聴取も進める。事務局の県学事文書課は、調査の終了は未定としつつ「ご遺族の意向をしっかり聞きながら調査する」としている。
2年の歳月が過ぎ、アンケートの回収や聞き取りは難航が伝えられる。それでも遺族は、検証委が徹底した調査で学校で起こったことを突き止めることに期待を寄せる。そのうえで、母親は「息子がこう言われてどう思っただろうか、などと本人の思いに寄り添った調査をしてほしい」と願う。そのことが次の犠牲者を出すことを防ぎ、再び悲しむ親を生まないことにつながると信じている。
◇これまでの経緯
2016年7月26日未明、周南市で県立高校2年の男子生徒(当時17歳)がJR駅構内で貨物列車にはねられ、死亡した。生徒のスマートフォンには遺書のような書き込みがあり、自殺とみられる。遺族の要望を受け、県教委の第三者委員会が調査を開始。17年秋にまとめた最終報告書は、生徒が学校生活で日常的にからかわれるなどの「いじり」を受けており、一部にいじめもあったと認定したが、原因の断定は避けた。また、生徒が亡くなる8日前から助っ人で参加した野球部での練習について、ストレス要因と指摘しながら、具体的な練習内容や、顧問の指導の適切性に踏み込まなかった。調査は不十分との遺族の申し入れを受け、村岡嗣政知事は12月、再調査を決定。県常設の「いじめ調査検証委員会」(委員長、堂野佐俊・山口学芸大教授)が再調査を進めている。