<山梨・北杜>中1いじめ半年「放置」 「重大事態」認めず
毎日新聞 2018/11/1(木) 6:30配信
山梨県北杜市で昨年11月、自殺を図った市立中1年(当時)の女子生徒(14)がいじめの被害を訴えたにもかかわらず、学校側はいじめによる「重大事態」と認めていなかったことが判明した。国のガイドラインは重大事態の疑いが生じた段階で速やかな調査を義務付けているが、学校側は遅くとも同年12月にいじめの疑いを把握しながら、第三者委員会は約半年後の今年7月まで設置されなかった。【野呂賢治】
◇女子生徒が自殺未遂
毎日新聞が入手した市教委作成の内部文書によると、女子生徒は昨年9月時点で「死にたい」などと生徒指導の担当教諭に訴え、11月下旬に自宅で手首を切って自殺を図った。学校が12月中旬に行った学期末に行うアンケートで、女子生徒は「9月から無視、仲間外れにされている。冷やかし、からかい、悪口、脅し文句を言われる」と回答。担任ら複数の教職員に相談したものの、「(状況は)変わらない」と書き込んだ。
今年1月に女子生徒は、複数のクラスメートからボールをぶつけられる嫌がらせを受け、不登校になった。家族が学校に状況を訴えたが、学校は「『無視される』などの様子は目撃することはできなかった」などとする内部資料を作成した。
女子生徒は東京電力福島第1原発事故後、福島県から北杜市に避難。家族によると「震災やいじめの経験などが原因の適応障害で自殺の恐れがある」との診断を受け、3月から約3カ月間入院した。現在は別の特別支援学校に通っている。
今年5月になって、女子生徒の家族が第三者委による調査を要望したことを受け、市教委は7月に設置。市教委は昨年度、今回のケースを重大事態と県教委に報告していないため、文部科学省が10月公表した問題行動・不登校調査の結果に含まれなかった。これに対し、県教委は「重大事態に当たる」として、次回は国に報告する。
市教委は「いじめと自殺未遂は無関係と考え、現在も重大事態とは認定していない。国の指針は、必要がある場合には第三者委を設置とあるが、絶対に(設置しなさい)とは言っていない。やるべきことはやっていた」としている。第三者委は10月末現在、開かれていない。
◇法の趣旨反する
2011年の大津いじめ自殺の調査に関わった渡部吉泰弁護士(兵庫県弁護士会)の話 (女子生徒がいじめを書面で訴えた)昨年12月時点で重大事態として扱うべきだった。学校側の対応は、いじめの早期発見や被害軽減をうたった「いじめ防止対策推進法」の趣旨に反する。寄り添った対応をしなかったため、被害拡大につながった可能性がある。
【ことば】いじめによる重大事態
学校で起きたいじめによって(1)児童らの生命や心身、財産に重大な被害が生じた(2)児童らが相当期間、学校の欠席を余儀なくされた−−疑いがある事態を指す。2013年施行のいじめ防止対策推進法に盛り込まれた。多くの場合、学校から重大事態発生の報告を受けた教育委員会の認定により、第三者委員会が設置される。重大事態の例としては、リストカットなどの自傷行為や欠席が続いて転学(退学)した場合が挙げられる。
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山梨のいじめ 対応鈍い教委 今年1月にも別件を把握
産経新聞 2018/11/1(木) 21:19配信
福島県から山梨県北杜市に移り住んだ中学1年の女子生徒が、通っていた市立中学校でいじめに遭ったとして、昨年11月に自殺を図った問題で、市教育委員会の井出良司教育部長は1日、今年1月にもいじめがあり、学校や市教委が把握していたことを明らかにした。
井出部長は取材に、「1月中旬に女子生徒がボールをぶつけられるいじめの事案があり、国の指針に基づく『重大事態』と認識した」と明かした。重大事態はいじめ防止対策推進法の規定で、調査などの対応が求められている。
女子生徒は自殺未遂後の昨年12月、学校のアンケートに対し、「無視、悪口や脅し文句を言われる」と回答するなど、いじめを訴えていた。
だが、「複数の教諭からの報告で、自殺未遂といじめとの関連が認められなかった」(井出教育部長)として、市教委は学校に指導をしなかった。
市教委はいじめを重大事態と「認識していた」と認めながらも、国の指針で対応が求められる「第三者委員会による『認定』までできなかった」と強調。山梨県教委などに正式な報告をしなかった。
市教委は生徒の家族から第三者委員会の設置を求められた5月、県教委に相談したという。県教委は委員の人選などでアドバイスをしたが、いじめ問題自体に関与しなかったという。
県教委義務教育課は取材に対し、「第一義的には市教委が対応する問題。県は市教委を指導する立場にない」としている。
生徒の母親は1日、山梨県政記者クラブにコメントを寄せ、「学校や行政は自分たちの立場を守るため、いじめ問題に向き合わず、責任逃れとしか思えない」と憤りを訴えた。