高すぎる手当…教員の駆け込み退職 「大人の事情」に子供を巻き込んだ
産経新聞 2013年2月28日(木)8時1分配信
制度の欠陥か、聖職者としてのモラル欠如か−。退職金減額を避けようと、全国で相次いだ教員らの駆け込み退職問題は、大きな議論を呼んだ。臨時教員を充てるなどして現場の混乱はおおむね回避できたようだが、お金が絡む「大人の事情」に子供を巻き込んだ後味の悪さが残った。(さいたま総局 安岡一成)
「埼玉県で教員110人が駆け込み退職」。1月、こんな見出しで報道は始まった。埼玉県の教員の今年度の退職予定者は1290人のため、110人は1割にも満たないが、3ケタに及ぶ実数の多さがニュースを大きくした。以降、埼玉県以外でも、教員、県職員、警察官などで早期退職意向の実態が次々と明らかになった。
ことの発端は、官民格差の是正のため、昨年11月に成立した改正国家公務員退職手当法だ。1月1日から国家公務員の退職手当を約15%減らすもので、総務省は地方公務員の退職手当も同様に減額するよう都道府県知事らに通知した。
この通知に従い、47都道府県のうち32で平成24年度内での減額施行を決定。埼玉県では、上田清司知事の「4月からにするより39億円浮く。できるだけ早くやるべきだ」との方針を受け、国より1カ月遅らせた2月1日からとした。
ただ、年度末まで勤め上げて初めて退職手当が満額支給される東京都などと異なり、埼玉県では定年である60歳の誕生日を迎えた時点で満額となる。このため、2月1日前に辞めた方が、2、3月分の月給を考慮しても70万円ほど「得」になる、裏を返せば、「まじめな人ほど不利益をこうむる」ことは内部でも指摘されていた。
しかし県は「使命感のある公務員なら任務を全うするはず」(県人事課)の一点張りで、問題が顕在化した後もその立場は譲らなかった。大量退職もある程度は予想していたというが、特に対策も取らなかった上、「予想より3倍くらい多かった」(上田知事)と見通しの甘さを露呈することになった。
とりわけ、批判の対象となったのが学級担任だ。卒業式や終業式前に、親しんできた恩師が「お金」を理由に姿を消すことに対し、「聖職者としてのモラル」を問う意見が噴出した。
上田知事は「いささか不快。無責任のそしりを受けてもやむをえない」、下村博文文部科学相も「許されないことだ」などと発言。こうした批判に加えて、現場では慰留も続けられた結果、埼玉県内では後に教員6人が退職意向を撤回した。
一方、退職者を生み出した制度そのものへの批判も多かった。1月末までに埼玉県に寄せられた県民からの意見126件のうち、教員批判は18件にとどまり、ほとんどが「県の責任だ」「教員を悪者にした人気取りの政策」などと県に向けられた批判だった。
結局、1月末で教員104人を含む139人の県職員が退職。県内の市町村は引き下げを新年度に持ち越したため、県の混乱だけが目立つ結果となった。
■高すぎる公務員の退職手当
国や地方自治体で退職手当を減額する法律や条例が制定された背景には、高すぎる公務員の退職手当への批判がある。
昨年3月、人事院は退職金と年金を合わせた退職給付の官民比較調査を発表。従業員50人以上の民間企業3614社の勤続20年以上の退職者の平均額は、平成22年度で民間は2548万円。これに対し、国家公務員は2950万円と、約400万円も上回った。
人事院は是正が必要と指摘。当時の政府は「官民格差ゼロに」「身を切る改革の一環」という方針に基づいて、国家公務員の退職手当を平成25年1月から段階的に引き下げることを決め、地方にも同様の措置を求めた。
埼玉県の場合も、平成23年度決算で、平均額は2724万円。「社会情勢を考えると、減額は受け入れるべきでは」とため息をつく県幹部もいた。
≪公務員の退職金減額をめぐる動き≫
平成24年
11月16日 改正国家公務員退職手当法が国会で成立
12月 7日 埼玉県が退職手当減額条例案を県議会に提出
21日 埼玉県議会が同条例案を賛成多数で可決
平成25年
1月 1日 同法施行
22日 埼玉県で早期退職意向の教職員が多数いることが判明
埼玉県の上田清司知事が「無責任のそしりを受けてもやむをえない」などと批判。「(数は)予想より3倍くらい多かった」とも
24日 下村博文文科相も「責任ある立場の先生は、最後まで誇りを持って仕事を全うしてもらいたい。許されないことだ」と批判
25日 文科省が駆け込み退職者は全国で172人と発表
31日 早期退職日。埼玉県では県職員139人(うち教員104人)が退職。教員6人が希望撤回
2月 1日 退職手当減額の条例施行