大麻の魔力に取り憑かれた女子留学生も…あの手この手で国境を越えようとする麻薬密輸犯の〝巧妙手口〟

元麻薬取締官・高濱良次氏(77)が、麻薬密輸の取り締まり現場について綴る後編。密輸の四つの手法の中から「携帯輸入」と「国際郵便」によるものについて、その詳細と実際に摘発した事件について綴る連載の第5回。その後編だ。 【前編】廃材の中に230㎏の覚醒剤を隠して…外国人集団の密輸を阻止したコントロールド・デリバリー捜査 ◆〝人間〟にクスリを仕込んで運ばせる手口 携帯輸入の特殊な事例として、薬物を飲み込んで密輸するという手口があります。私の現役時代から何度となく行われてきた手法で、今も行われております。最近の事例を紹介しますと、’19年(令和元年)12月、広域系暴力団員が、コンドームのようなゴム製袋(長さ約5cm)7個に覚醒剤計約150gを小分けして大腸内に飲み込んで、中国・広東省から関西空港に密輸しようとしました。しかし、飛行機内でけいれんを起こしたため、着陸後、病院に緊急搬送。その後のCT撮影で発覚しました。調べに対して「中国人女性に報酬20万円で頼まれた」と容疑を認めております。 また覚醒剤やコカインは、液体に溶けるという特徴を生かし、初めから色のついたウイスキーやラー油に溶かし、密輸されたケースもあります。密輸が成功すれば、その液体を煮沸して、それら薬物を取り出すという方法であります。 このようにコーヒー豆、民芸品、空のバッグなど、どんなものにも薬物が仕込まれている可能性があります。ツアーガイドや現地人などの〝親切な人〟から、「このプレゼントを日本の友達に届けてほしい」などと依頼されたとき、そのプレゼントの中に薬物が入っているケースがあります。旅行者を薬物の運び屋に仕立て上げるために下心をもって近づき、親しくなろうとする輩もおります。 ある日本人の男性は、「旅行記を書けば旅を無料ででき、報酬を渡す」というウェブサイト上の募集に応じ、タイ・バンコクに赴きました。到着翌日、宿泊先に訪れたイラン人男性から、「ドイツ西部フランクフルトまで運んでほしい」と言われて、スーツケースと2000ドルを渡されたそうです。そのスーツケースには、凍ったような硬い服が入っておりました。 不審に思った男性が日本大使館に連絡し、大使館から連絡を受けた現地警察は、そのイラン人を逮捕しました。衣服は重さが5.8kgもあり、覚醒剤が沁み込ませてありました。さらにスーツケース内には覚醒剤の結晶約2.3kgも隠されておりました。この男性はあわや覚醒剤の運び屋にさせられる直前で難を逃れることができたのです。また婚活サイトで知り合った日本人女性を恋人にして受け取り役を担わせる「ラブコネクション方式」など年々密輸手口は巧妙かつ多様化しております。 ◆あわや失敗? と思われたコントロールド・デリバリー捜査 密輸の四つ目の手法である「国際郵便」に対する捜査では、コントロールド・デリバリー捜査で対応しております。現在では前述の不正薬物探知装置が活躍しております。この装置の誕生以前は主にX線検査装置が主流を占め、時には麻薬探知犬が、その役割を担うこともありました。 「国際郵便」に関する事犯も、私の現役時代から綿々と発生しており、それは今も変わりません。対象薬物は、覚醒剤から大麻、コカイン、MDMA、さらには危険ドラッグに至るまで多種多様であります。私には今も記憶に鮮明に残っている事件が3件あります。 一つは’03年(平成15年)のブラジル人2名による国際郵便を利用した複数回にわたる大麻密輸事犯です。大麻は、航空通常郵便物の中に入っていた絵葉書の間に挟まれていました。このブラジル人のケースでは、滋賀県のマンションにある空き部屋の郵便受けに配達されましたが、受取人がどこの誰なのか皆目分かりませんでした。その後の粘り強い捜査で2人のブラジル人の存在が浮上し、逮捕しております。 2例目は、京都市に在住の40歳代の日本人男性によるタイからのクレヨンに偽造した大麻樹脂約600gの密輸事犯であります。このケースでは、国際小包が利用され、郵便ルートに乗り、午前中の早い時間に配達先に届けられました。しかし、その後何の動きもないまま時が過ぎ、夕暮れ近くになりましたので、急遽住居に踏み込みました。しかしその配達された小包は、開封されないまま1階の階段下に放置されたように雑然と置かれておりました。 開封されずに置かれているだけでは、この部屋の住人とクレヨン状の大麻樹脂との関連性を裏付けることはできません。しかし、その後の部屋の捜索で大麻約10gが発見されたのです。それが大きな証拠となりました。指揮官の私としても、仮にその男性が大麻樹脂の存在を否認したとしても、公判には何ら問題はないとの自信を得ました。最終的には小包の大麻樹脂と部屋から出た大麻の所持での現行犯逮捕ができ、両方とも解決に導くことができたのです。これは非常にうまくいった事例で、それだけに私にとっては今もとても思い出深い事犯です。 ◆ロウソクの中に大麻草を埋め込んで郵送 3例目は、大阪と東京におのおの在住の20歳代の日本女性2名が、留学先のイギリスから日本に大麻を密輸した事犯であります。関西空港にある外郵出張所で税関職員がある国際郵便物に不審を感じ、いつものようにX線検査装置で調べました。するとその中の約7㎝立方のブロック状のロウソク内に大麻草約10gが埋め込まれているのを発見しました。 配達先は大阪在住の女性Aの住居でした。そこで私は女性の帰国を関西空港で今か今かと待っていると、そこにAが東京在住の女性Bとともに帰国して来たのです。直ちにAのみを大麻密輸で逮捕し、住居を捜索すると、関西空港で押収したものと同じ形態の国際郵便物を発見しました。その場で中身を調べるとやはりロウソク内に大麻草が隠匿されているのが判明しました。 取り調べではAは、Bと共に、オランダ・アムステルダム市内に赴き、政府公認の大麻を販売する「カフェ」で自分たちが吸煙する大麻草を購入。その後寮内で喫煙していたそうです。その後帰国が近づくにつれて、2人は残りの大麻草の処分に躊躇し、最終的に日本に持ち帰ろうと決めたということでした。 女性たちは、以前大阪のアメリカ村で売られていたロウソクを思い出し、その中に大麻草を隠匿することを計画しました。ロンドン市内で購入したロウソクをくり抜いてその中に大麻草を隠匿したうえ、元のロウソクで蓋をしたのです。そうして造り上げた4個分の国際郵便物を市内の郵便局から、日本に送付しました。その一つが、関西空港で見つかったのです。 Aに続いて、Bも逮捕されましたが、証拠固めに数日を要している間に、既に配達済みの国際郵便物2個を父親の手で直ちに処分させてしまっていました。それゆえに押収するには至りませんでした。 このケースは素人の女性たちが、日本で大麻を吸いたいがために企てた密輸事犯でした。それだけに大麻の持つ魔力に狂わされた彼女たちの人生を垣間見たようで、何とも言えない気持ちになりました。そのことは私の心に今も刻みつけられております。 『マトリの独り言 元麻薬取締官が言い残したいこと』(高濱良次・著/文芸社)

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