日本企業の海外進出に注目高まる「グローバルサウス諸国と治安リスク」

近年、日本企業の間では脱中国依存の動きが広がっていたが、トランプアメリカの誕生によってその保護主義への懸念も広がっている。そして、日本企業のグローバルサウスへの関心が強まっているが、グローバルサウスにはテロのリスクを抱える国が少なくない。【和田 大樹】 トランプ政権が発足したことで、日本企業の間では当然のようにトランプ関税への懸念が広がっている。現時点で、トランプ大統領はカナダとメキシコからの全ての輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を発表し、日本を含む外国からの輸入品に一律10%から20%の関税をちらつかせている。 日本企業の中にはカナダやメキシコ、中国で作ったモノを米国へ輸出する企業もあり、米国内での生産強化、米国への輸出量削減などを検討する動きも見られる。 そして、トランプ政権が保護主義化を露骨に示す中、中国はそれこそが自由貿易に対する脅威だと訴え、日本に接近を試みている。実際、日中間では最近関係改善に向けた動きが進んでおり、トランプ流保護主義への懸念を共有しているようにも映る。 それも関係してか、海外進出企業に対して地政学リスクの観点からコンサルティング業務に従事する筆者の周辺では、「近年は脱中国依存だったが、米国が保護主義に走っているので、脱中国依存の動きが後退するのでは」と言った声が聞かれる。 しかし、日中の間では尖閣や台湾など懸念事項は何も改善に向かって動いておらず、潜在的リスクは残ったままであり、トランプ流保護主義と日中関係を天秤に掛けて比較衡量するのではなく、別問題としてその動向を注視する必要がある。 【グローバルサウスに注目する日本企業】 一方、今後トランプ政権下で新たな米中対立が予想される中、日本企業の間ではそういった大国間リスクとは距離を置くグローバルサウス諸国への関心が近年強まっているが、グローバルサウス諸国の中にはテロの脅威(差し迫った脅威もあれば潜在的な脅威もある)を抱える国々が少なくなく、グローバルサウスへの開拓強化を目指す日本企業からは治安面での懸念が大きく聞かれる。 ここでは、インドネシア、インド、アフリカ・サヘル地域に絞って紹介したい。 【インドネシアのテロ組織の代名詞だったジェマーイスラミアが解散】 まず、多くの日本企業が進出する東南アジアで、インドネシアのテロ情勢は大きな転機を迎えた。国内で過去に欧米権益を狙ったテロを繰り返してきたイスラム過激派ジェマーイスラミアは昨年6月末、組織を解散を発表した。 公開したビデオ動画にはジェマーイスラミアの幹部16人が映り、組織を解散し、今後はインドネシア国家に従順し、法令を遵守していくことを宣言した。 解散に至った背景には、組織の中で暴力的な聖戦への関心が集まらなくなったことなどが考えられるが、2002年10月にはバリ島で外国人観光客が集まるナイトディスコを狙った爆弾テロを実行し、200人あまりが死亡した。 死亡者の多くはオーストラリア人だったが、現場にいた日本人2人も犠牲となった。 その後も、2003年8月のジャカルタ・マリオットホテル爆弾テロ(12人死亡、約150人負傷)、2004年9月のジャカルタ・オーストラリア大使館前爆破テロ(9人死亡、約150人負傷)、2005年10月のバリ島・同時爆破テロ(邦人1人を含む23人死亡、約200人負傷)、2009年7月のジャカルタ・マリオットホテル及びリッツカールトンホテル連続爆破テロ(9人死亡、約50人負傷)など欧米人を狙ったテロ事件が相次ぎ、この当時インドネシアは世界的にも1つのテロの震源地だった。 そのジェマーイスラミアが解散を宣言したことは、インドネシアのテロ情勢にとって大きな明るい兆しとなったが、解散という決定に納得がいかないメンバーも存在し、そういったメンバーたちが新たな過激組織を結成する可能性は否定できない。

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