『べらぼう』が描く江戸は現在の日本と重なるところばかり 蔦重と一緒に考える“未来”

世の中はいつだって一つの瞬間をとどめておくことはできない。吹く風がその場にとどまることがないのと同じように。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第13回「お江戸揺るがす座頭金」で描かれたのは、それぞれの風向きの変化だった。 吉原では「俄(にわか)」祭りを懐かしむ忘八たちの姿が見受けられた。あれほど火花を散らしていた大文字屋市兵衛(伊藤淳史)と若木屋与八(本宮泰風)が仲良く踊る様子は、少し前では考えられなかったこと。人の感情や関係性というのも、常に変化し続ける。 すると、『金々先生栄花夢』を筆頭に青本で盛り返していた鱗形屋(片岡愛之助)が、またもや逮捕されたという知らせが入る。しかも前回捕まった偽板騒動と全く同じ罪だというから蔦重(横浜流星)を驚きを隠せない。鱗形屋の立場が危うくなるほどに、蔦重の作った『吉原細見』が売れるという有利な状況になったものの、その表情は複雑だ。 蔦重にとって鱗形屋は師匠とも言える存在。今ではその関係性が変わってしまったとはいえ、そんな苦しい状況を聞いては何もせずにはいられない。少しでも助けになればと思い、鱗形屋の『吉原細見』を500冊購入したいと申し出る。蔦重にも借金はあったが、それでも何かできないかと思ってのこと。 しかし、鱗形屋からは施しはいらないとばかりに断られた上、「そろそろ返してくれませんか、うちから盗んだ商いを」とまで言われてしまう。どうやら、鱗形屋が再犯に手を染めることになったのは各所に重ねた借金が原因だったようだ。なかでも、鳥山検校(市原隼人)を頭とする当道座からの借金「座頭金」の取り立てが厳しかったことがうかがえる。 現代のように社会保障制度が整っていなかった中世より、目の見えない人々は当道座と呼ばれる自治組織を作り、互いに助け合いながら生きていた。江戸幕府は、そんな当道座に対して経済的特権として金融業を公認することに。幕府公認とあって多くの人が利用した一方で、その権力は時間の経過とともに巨大化。莫大な富を築き上げたというのは、瀬川(小芝風花)を庶民では到底手の届かない額で身請けした鳥山の財力を見ればおわかりの通りだ。 さらに1年前に、幕府が札差の高利貸しを禁じたことで、さらに座頭金へ走る者が増加。札差から借りられなくなった武士たちも借金を重ねていくことになったという。なかには法外な金利での貸付けや不当な取り立てをする悪質な座頭貸しも出現。追い詰められた旗本が娘を借金のかたに売る羽目になったり、家督の乗っ取りに遭うといった事態も耳にするほどになっていった。 かつて「守られるべき」だとして特権を与えられた当道座が、今度は強者であるはずの武士たちを追い詰めるという本末転倒な状況。だが、徳川家康が打ち出した仕組みということで、誰も手出しができずにいたところ、動き出したのが田沼意次(渡辺謙)だった。勘定奉行の松本秀持(吉沢悠)や、後の「鬼平」こと長谷川平蔵宣以(中村隼人)に座頭金の事情を調査するように命じ、その結果によっては一斉検挙に出ようと考える。それは、江戸城内で徐々に風当たりの強さを感じてきた意次自身の風向きを変えようという一手でもあった。 すると、江戸城に勤める武士の多くが座頭金に手を出し、大きな借金を背負っていることが判明。質素倹約を心がけてきた真面目な旗本が出家しなければならなくなったほど状況は切迫しているのだと、将軍・徳川家治(眞島秀和)に強く訴える意次。「徳川家400万石。されど、米の値は下がるばかり。今のままのやり方では……」という言葉は、なんだか今の世に意次がいても言われてしまうのではないかと思えるものだった。 世の中は動き続けている。物の価値は変動し、人びとの価値観も変わり続ける。同じやり方では、現状維持すら危うい。しかし、栄華を極めるほどに、その風当たりに鈍感になってしまうのが人の本能的な性分なのかもしれない。「盛者必衰」なる言葉があるのも、その証。 そして誰かが転落するからこそ、そのポジションが空く。しかし、その席をめぐって誰かと足を引っ張り合うことがなくとも、目の前にそのチャンスが転がってくることも。実際に、鱗形屋の転落を目の当たりにし、新たに本屋として羽ばたこうとしていた蔦重は、まるで鱗形屋のツキを奪っているようだと心を痛める。「みんながツキまくる世ってのは、ねぇもんすかね。誰かのつまづきの上にツキが成り立ってるっていうのは……」と浮かない顔をした蔦重に、平賀源内(安田顕)はこう言うのだ。

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