尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領が罷免され、不訴追特権がなくなったことで、検察、警察、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)による同時多発捜査は避けられなくなった。追加起訴が予想されることから、再拘束の可能性も排除できない状況だ。 まず警察非常戒厳特別捜査団(特捜団)は、尹前大統領を特殊公務執行妨害の容疑で立件し、捜査を進めている。警察は、1月3日に公捜処が適法に裁判所から発給を受けた逮捕状の執行を、尹前大統領が大統領警護処を動員して阻止したとの疑いをかけている。また警察は、キム・ソンフン警護処次長が職員たちに、非常戒厳で動員された軍の司令官の盗聴防止機能付き電話(秘話フォン)端末の情報の削除を指示したことの背後にも、尹前大統領がいるとみている。警察特捜団は、尹前大統領がキム次長に自身の逮捕を阻止するよう自ら指示したメッセージなど、多数の証拠を確保していることから、直接調査に乗り出す可能性が高い。警察は、拘束されていた尹前大統領が釈放されたことで事実上中断されていた警護処関係者に対する調査をさらに実施してから、尹前大統領を呼び出すかどうかを検討するとみられる。建国大学法学専門大学院のハン・サンヒ名誉教授は6日、「尹前大統領の特殊公務執行妨害容疑は証拠隠滅と関係する部分であるため、拘束理由にもなるとみられる」と語った。 尹前大統領の前で止まっていた公捜処による「(海兵隊員)C上等兵捜査外圧疑惑」の捜査も、再開される見込みだ。公捜処は、イム・ソングン元海兵隊第1師団長にC上等兵殉職事件の責任を問うとする海兵隊捜査団による捜査結果に尹前大統領が激怒し、事件の送致を阻むなど、全方位的な介入をおこなったとみている。公捜処は、国防部調査本部などの実務者らを呼んで事情聴取するとともに、尹前大統領の個人の携帯電話と大統領室の現職や元関係者の通信内訳を早期に確保している。内乱捜査がほとんど終わっているだけに、公捜処はまもなく捜査を再開するとみられる。 「ミョン・テギュン・ゲート」疑惑を捜査している検察も、本格的に尹前大統領夫妻に対する捜査のスピードをあげるとみられる。尹前大統領夫妻は2022年の大統領選挙時に、ミョン・テギュン氏から世論調査の結果の提供を無償で受け、その対価として補欠選挙での国民の力の候補公認に介入した疑いが持たれている。検察は、尹前大統領とキム・ゴンヒ女史が大統領就任前日の2022年5月9日にミョン氏に電話で、国民の力のキム・ヨンソン前議員の公認に尽力したという趣旨の話をしている肉声の録音記録だけでなく、キム女史が2021年7月にミョン氏から世論調査結果の提供を事前に受けた際に使われたカカオトークのメッセージも確保している。検察はまもなく、キム女史の対面調査に着手する可能性が高い。 キム女史の株価操作疑惑とブランドバッグ受け取り事件の再捜査の可能性もある。最高裁は今月3日、キム女史がかかわった疑いのあるドイツモーターズ株価操作事件で、ドイツモーターズのクォン・オス元会長ら9人の被告全員の有罪を確定した。キム女史と同様に「資金提供者」役だった共犯者S氏の有罪が確定したことで、キム女史を再捜査する必要性がさらに高まったのだ。ソウル中央地検は昨年10月に「相場操縦のことを知っていたという明確な証拠がない」としてキム女史を嫌疑なしとしたが、告発人の抗告でソウル高等検察庁は再捜査を行うかどうかを検討中だ。キム女史のチェ・ジェヨン牧師からブランドバッグを受け取った事件も、ソウル中央地裁は職務との関連性・対価性がないとして嫌疑なしとしたが、告発人の抗告でソウル高等検察庁の担当となっている。これらの事件は、今年3月に国会本会議で可決された「キム・ゴンヒ常設特検法」の捜査対象でもある。新政権の発足後に特検が捜査に着手する可能性も高い。 カン・ジェグ記者 (お問い合わせ [email protected] )