アメリカの連邦最高裁判所は7日、トランプ政権が中米エルサルバドルに「手違い」で強制送還したメリーランド州在住の男性をアメリカに帰国させるよう求めた下級審命令について、一時的に差し止める判断を下した。下級審命令の差し止めを求める政権側の訴えを認めたかたち。 ドナルド・トランプ大統領は不法移民対策の一環として、犯罪組織のメンバーとされる人々を国外に追放している。政権は先月、ギャング団「MS-13」のメンバーだとして、エルサルバドル出身でメリーランド在住のキルマー・アブレゴ・ガルシア氏(29)を強制送還した。弁護人は、ガルシア氏はギャングのメンバーではないとしている。 ガルシア氏の帰国を求めて家族が提訴したところ、司法省は3月末、同氏の送還は「事務手続き上の手違い」だと文章で認めていた。 メリーランド州の連邦地裁は4日、ガルシア氏を7日までにアメリカに帰国させるよう命じた。 しかし、連邦最高裁のジョン・ロバーツ長官は7日、連邦地裁の命令を一時的に差し止めることに同意した。 トランプ政権は、メリーランドの連邦地裁には帰国命令を下す権限がなく、加えて米当局がエルサルバドルにガルシア氏の返還を強制することはできないと主張。連邦最高裁に緊急の訴えを起こしていた。 ディーン・ジョン・サウアー訟務長官は最高裁への訴えで、「アメリカは主権国家エルサルバドルを支配していないし、連邦判事の命令に従うようエルサルバドルに強制することはできない」と主張。「憲法は連邦地方裁判所ではなく大統領に外交の遂行と、外国人テロリストの排除を含む外国人テロリストからの国家保護という職務を課している」とも書いていた。 パム・ボンディ司法長官は、ロバーツ最高裁長官の判断を歓迎し、政権は「この訴訟と戦い続け、司法の逸脱行為から行政府を守っていく」と述べた。 ロバーツ長官が連邦地裁の命令差し止めを決めたことで、最高裁にはこの件を検討するための猶予が与えられた。 ■「ギャングとつながっている」と ガルシア氏は現在、犯罪行為やギャング活動の疑いでアメリカから強制送還された男性数百人と共に、エルサルバドルの悪名高い巨大刑務所、テロ監禁センター(CECOT)に収監されている。 ガルシア氏の妻でアメリカ市民のジェニファー・バスケス・スーラ氏は、夫の解放を求めている。ガルシア氏は先月拘束されるまで、板金工として働いていたと報じられている。 ガルシア氏は2011年に、エルサルバドルからアメリカに不法入国した。2019年にメリーランド州で別の男性3人と共に逮捕され、連邦移民当局の施設で勾留された。同年、エルサルバドルのギャングから迫害される恐れがあるとして、強制送還を差し止める保護処分の対象になった。 国土安全保障省は移民担当判事に対し、エルサルバドルにルーツを持つ、ロサンゼルスで結成されたストリートギャング集団「MS-13」とガルシア氏につながりがあることを「証明する、信頼できる情報源」を確認したと主張した。 しかし、ガルシア氏の弁護人は、同氏にはギャングとのつながりも犯罪歴もないと主張した。 ガルシア一家の弁護人を務めるサイモン・サンドバル・モシェンバーグ氏は、先月のガルシア氏の強制送還は「強制追放に等しい」ものだと述べた。 7日午後、サンドバル・モシェンバーグ弁護士は最高裁長官の命令について、「これは一時的な行政上の停止にすぎない。最高裁がこの問題をできるだけ速やかに解決してくれること、我々は大いに確信している」と述べた。 メリーランド州連邦地裁のポーラ・キシニス判事は4日の審理で、ガルシア氏の強制送還をめぐり、トランプ政権を追及。これに対して司法省のエレズ・ルヴェニ弁護士は、ガルシア氏は「追放されるべきではなかった」と法廷で発言していた。 この審理を受けてボンディ司法長官は6日、「アメリカのために熱心に弁護」しなかったとして、レウヴェニ弁護士を有給休職扱いにしたと発表した。レウヴェニ氏は司法省で15年務めてきた。 メリーランド州のキシニス地裁判事は6日、ガルシア氏を強制送還するという米政府の誤りは「良心に衝撃を与えるもの」だと指摘した。 そして、政府は「合法的な権限なしに」行動し、アメリカの法律に「真向から反する」かたちでガルシア氏を拘束したとした。 トランプ政権はメリーランド州の控訴裁判所に、キシニス判事の命令を停止するよう求めたが、控訴裁判所はこれを退けた。 最高裁はその後、ガルシア氏の返還期限として示されていた7日午後11時59分のわずか数時間前に、連邦地裁の命令の一時差し止めを決めた。 トランプ政権は、連邦地裁が提示した返還期限までにガルシア氏を帰国させるのは「不可能」だとしていた。 (英語記事 US Supreme Court pauses order requiring return of deported man)