警察官も手を出す脱法ハーブ 規制もヤミ化で“無法状態”
産経新聞 2012年12月30日(日)11時28分配信
平成24年は全国各地で車の暴走が相次いだ。原因はドライバーの無免許運転や持病が原因などさまざまだが、大阪市福島区と中央区で5、6月に発生した暴走事件の共通原因は脱法ハーブだった。捜査機関が取り締まりを強め、行政側も規制を強化しているが、製造者は薬物の成分をわずかに組み替えて次々と新商品を流通させ、販売する側もあの手この手で営業を継続、ついには手を出してしまう警察官も現れるなど、根絶はかなり難しいのが実情だ。
■ヤミ化するハーブ
「いらっしゃいませ。本日はどのハーブになさいますか」
大阪市内のある脱法ハーブ店に電話をかけると、男性スタッフの丁寧で明るい声が聞こえてきた。
この店はブログやフェイスブックを活用し売れ筋商品を紹介するなどの工夫で顧客を増やした人気店だったが、1月、禁止薬物が入った違法なハーブを販売したとして大阪府警に薬事法違反で摘発され、いったんは閉店に追い込まれた。
このころから大阪のキタやミナミの繁華街ではハーブ店が目につきにくくなり、摘発強化が奏功したかのようにみえた。ところが、電話やインターネットで宅配に応じる「デリバリー方式」に装いを変え、目立たないように営業する店が増加。この店も最近、デリバリー方式に軸足を移し、ハーブの販売を再開させた。
スタッフにおすすめのハーブをたずねてみると、数種類の銘柄を紹介してくれたが、効能については「さあ…。僕らもあまりそういうことはしゃべらないように言われているんで」と口ごもってしまった。取り締まりの強化を受け、警戒しているのだろうか。
するとスタッフは「こうしている間にも、注文の電話がじゃんじゃんかかってきているので、お客さま、欲しい商品を決めてからもう一度ご連絡いただけますか。24時間、いつでも配達致しますので」と早口でまくし立て、一方的に電話を切ってしまった。
ある捜査関係者は「確かにハーブの販売店数は減少しているが、その分、ヤミ化も進んでいる」と悩ましげに話す。
■相次ぐ暴走
脱法ハーブの大きな問題点は、覚醒剤や大麻とよく似た幻覚作用を持ち、意識障害に陥ることだ。
大阪市福島区では5月、ハーブの吸引後にレンタカーを運転した塗装工の男が車1台が通るのがぎりぎりの商店街を暴走。買い物中の女性をはねて右足骨折の重傷を負わせたほか、路上の看板をはね飛ばして書店経営の女性にぶつけ、軽傷を負わせた。
男は翌日、府警に道交法違反容疑(ひき逃げ)容疑で逮捕されたが、その後の捜査で商店街で暴走する直前には高速道路を約2キロ逆走していたことも判明。男は「ハーブを吸っていて普通の状態ではなかった。『誰かに追われている』『捕まったら大変なことになる』という気持ちになり、事故を起こしてもひたすら逃げた」と供述したという。
その翌月にはミナミの繁華街で、別の男がハーブを吸引しながら軽乗用車を運転。歩道に乗り上げ、女性2人をはねた。いずれも軽傷で済んだが、この日は週末の夜で若者ら多くの人でにぎわっており、大惨事に発展する恐れもあった。
ハーブに“ハマる”のは社会的責任が重い人たちも少なくない。また、広島県警では11月、20代の男性巡査が休日に友人と一緒にハーブを吸引。この友人が意識障害を起こし、救急搬送されたことから、吸引が発覚した。
国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)の船田正彦・依存性薬物研究室長によると、ハーブの中には大麻よりも毒性が強いものもあり、市販のハーブから抽出した成分をマウスの脳細胞が入った試験管に投与したところ、2時間で細胞が死滅する実験結果もあるという。
船田室長は「ハーブには人間の運動能力を著しく低下させる『無動状態』にする効果もある。相次ぐ暴走運転は、ドライバーが無動状態になっている可能性が高い」と指摘する。その上で「ハーブは大麻や覚醒剤よりも効果が低い『ゲートウエードラッグ(入門薬物)』だと思われているが、大きな間違い。法をかわすために成分を少しずつ変えているハーブは作った人間ですら薬効を分かっていないケースが多い。自分自身の体を使って人体実験をしているようなものだ」と危険性を危惧する。
■強まる取り締まり
脱法ハーブのもう一つの問題点は規制の網がかけにくいことだ。国が薬事法で禁じている指定薬物をわずかに組み替えてつくられているため、規制対象にはならない上、新たに成分を規制してもまた新種がつくられ続けている。
こうした中、大阪府は指定薬物の類似成分を「知事指定薬物」として取り締まりの対象にした府条例を制定。厚生労働省も成分が似た複数のドラッグを一定のグループにまとめて規制をかける「包括指定」に踏み切る方針を決めている。
だが、薬事法は製造や販売、輸入を規制しているだけで使用や所持は取り締まれない。一方、府条例では使用や所持に50万円以下の罰金を科したが、覚醒剤などと比べて罰則は軽い。このため、包括指定後もデリバリーなどの手段を使い、ヤミで流通し続ける可能性は高い。
それを示すのがネットの匿名掲示板だ。ハーブの愛好家がより刺激的な銘柄の情報を求めて集い、こんな投稿を書き込んでいた。
「ハーブすごすぎ。気持ちよすぎてワロタ」