交通事故を起こして搬送された病院で看護師にけがを負わせたとして、俳優の広末涼子容疑者が逮捕された。その第一報が「自称・広末涼子容疑者逮捕」だったため、なぜ「自称」なのかについても注目が集まった。元関西テレビ記者で、神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「『自称』をめぐる捉え方の違いに、いまのマスコミの問題点があらわれている」という――。 ■「自称」の理由 奇妙な第一報だった。 「自称・俳優の広末涼子容疑者が逮捕されました」と聞いて、多くの人が違和感を抱いたのではないか。 4月7日夜に、静岡県掛川市の新東名高速道路で交通事故を起こし、搬送された同県島田市の病院で、8日未明に看護師にけがをさせた傷害の疑いが、広末容疑者にはもたれている。 この事件での「自称」を付けた呼び方が、ネット上で話題になった。この経緯については、地元の静岡放送が、次のように説明している。搬送され、そして逮捕された病院で身分を証明するもの(運転免許証など)を広末容疑者が持っておらず、警察が確認できなかったのが、大きな理由だという。 私自身は、記者だったころに、警察による容疑者への「自称」付の発表を何度も聞いているから、驚かなかった。このため、SNSなどで「自称」が騒がれ、そして、静岡放送のほかにも毎日新聞が、わざわざ〈容疑者に「自称」がつくのはなぜ?〉と題した記事を配信しているほうが、逆に不思議に感じた。 まさにここに、今回の報道の、そして、マスコミ(用語)全般についての、世間と業界とのギャップがあらわれているのではないか。 ■どちらに転んでも「ニュースバリュー」がある 今回の事案については、マスコミの思惑があったのではないか。 まずは、広末涼子という大物俳優の逮捕そのもののニュースバリューである。静岡県警が発表しているのだから、「自称」は、やがて取れる=確認がとれるに違いない。そんな見通しがあったに違いない。それとともに、仮に「自称」のまま=広末涼子を名乗る別の人物による犯行だったとしても、それはそれで、傍迷惑なお騒がせ事件だと報じられるとのもくろみもあったのではないか。 どちらにしても、「広末涼子」にネームバリューがあり、ニュースを報じれば、多数の目をひきつけられるはずだ、との打算があったのではないか。事案の中身はともあれ、30年に及ぶ芸能生活のなかで、たびたび世の中を賑わせてきた人物なのだから、何かを報じれば注目される。この私の記事もまた、そのひとつにほかならない。 実際、2015年には、窃盗の疑いで逮捕されてからも「福山雅治」を名乗り続けた男がいたと、「弁護士ドットコムニュース」が報じている。広末容疑者の逮捕をきっかけに、この事案も脚光を浴びたようだが、それよりも、そもそも、芸能人の逮捕をどう報じてきたのかを振り返らねばなるまい。