<脳しんとう>軽視禁物、学会が初のガイドライン
毎日新聞 2014年1月22日(水)11時56分配信
柔道などのスポーツによる青少年の頭部外傷が社会問題化する中で、脳神経外科医らでつくる「日本脳神経外傷学会」(事務局・東京都)が、医療従事者を対象にした初のガイドラインをまとめた。脳しんとうはスポーツの現場で軽く考えられがちだったが、重度の障害につながることもあるため、医師らに画像診断を推奨し、症状が続く時は競技復帰させないよう明記した。【飯田憲】
スポーツによる脳へのダメージは重度の障害や死に至るケースが少なくない。激しい接触を伴うボクシングやラグビーなどのほか、2012年度から中学校で武道が必修化され、柔道の危険性もクローズアップされた。
名古屋大大学院の内田良准教授(教育社会学)によると、1983年以降、中学・高校で起きた柔道による死亡事故は12年度までに118件、後遺症が残った事故は09年度までに275件に上る。中学校での事故死亡率は10万人当たり2・38人で、他のスポーツに比べ高いという。
柔道では頭を畳に強打しなくても、投げ技で脳が激しく揺さぶられて血管が切れる「加速損傷」で重度の障害を負うことがある。一方で、スポーツが脳に与えるダメージの評価は医師の間でも判断が分かれており、学会は診断の指針を作ることにした。
ガイドラインは、柔道関係者の間で「ありふれた症状」と考えられることもある脳しんとうについて、一時的な意識障害だけでなく、頭痛など幅広い症状を含むものと定義。詳しい状態を確認するため頭部の画像診断を勧めた。
その上で、脳しんとうを起こした人が再びダメージを受けると、急性硬膜下血腫などを起こして重度障害や死亡に至ることがあると注意喚起。症状が続く時は復帰を許可しないことを明記している。
作成に関わった同学会の野地雅人・神奈川県立足柄上病院医師は「医師の診断基準を統一することで、事故の予防につなげたい」と話している。
◇意識戻らず5年
は、市内の私立高校に入学直後の2008年5月、柔道部の練習中に頭に重いけがをした。それ以来、意識は戻らず24時間介護が欠かせない。
体を鍛えるために入部したが、半月後に練習中に倒れ脳しんとうと診断された。実際はこの時に脳の血管が傷ついていたが、練習に復帰し、その半月後の大会時のウオーミングアップで同級生に投げ技を掛けられ、血管が切れて急性硬膜下血腫を引き起こした。
顧問教諭は脳しんとうを把握していたが、練習をやめさせることはなかった。父広隆さん(58)は学校側に賠償を求め提訴。昨年7月の2審・東京高裁判決は「脳しんとう症状を知っていた顧問は練習に参加させないようにするなど安全を確保すべきだった」と認定し、原告側勝訴が確定した。
ガイドラインについて、広隆さんは「医師が指導者をはじめ競技現場に注意を呼びかける意味でも欠かせないだろう」と評価した。