中国2018年はセクハラ告発元年? 初の名指し#MeTooで大学教授免職

中国2018年はセクハラ告発元年? 初の名指し#MeTooで大学教授免職 
産経新聞 2018/1/30(火) 10:00配信

 2018年の中国がセクハラ告発元年となりそうな“事件”が年明け早々に起きた。欧米で広がったセクハラ被害の告発運動に影響され、中国の女性で初めてとされる「#MeToo(私も)」を掲げたセクハラ被害の告発が、中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」上で1月1日に実名でアップされた。これが100万回以上もリツイートされて、名指しされた加害者の大学教授が大学の調査を受け、10日ほどで免職処分される騒ぎになった。

 微博上に画像で「#MeToo」を掲げて実名で告発したのは、米国在住の中国人女性、羅茜茜さん。羅さんが大学院の博士課程に在籍していた北京航空航天大学で12年前、指導教官だった陳小武(1972年生まれ)に個室に連れ込まれて、性的関係を迫られたという。羅さんは激しく抵抗して難を逃れたが、当時は被害を誰にも明かせなかった。その後、幻聴や幻覚などに悩まされたようだ。

 ただ昨年、「#MeToo」の動きが広がったことで自分の被害を公にすることを決意。同大学でやはり陳のセクハラ被害にあった女性6人の証言も得た。なかには陳に強要された性行為で妊娠した女子学生もおり、陳が金銭を渡して口封じしようとしたなどと赤裸々に告発した。あえて「#MeToo」を掲げた。

 教授だった陳はバーチャルリアリティー(VR)技術などの研究で知られ、中国教育省が優れた研究者として認める「長江学者」の称号まで受けていた。その告発による微博上の反応の大きさに驚いた大学は、陳への事情聴取など調査に乗り出し、11日の深夜に微博で真っ先にセクハラ行為の事実と陳の処分を公表している。処分と発表が遅れれば遅れるほど、問題が深刻化すると踏んだようだ。

 中国メディアは「#MeToo」を掲げた中国における初の被害告発と伝えている。「#MeToo」と連動する形で、中国でも過去の被害の告発がネットで急増する可能性がある。中国語で「私も」の意味である「我也是」のローマ字発音表記を使い、「#WoYeShi」とする発言もネット上に出始めている。

 もちろん中国でセクハラ問題が公になったのは初めてではない。昨年12月には江西省の南昌大学で複数の女子学生にわいせつ行為を長期にわたって行ったとして、中国史などを研究する国学研究院の周という副院長が処分された。昨年5月には北京映画学院で、教員による女子学生へのセクハラが「微博」で告発されている。いずれも立場の弱い女子学生が、成績や進学先などを材料に、被害にあったものとみられている。

 ただ、中国ではなおセクハラに対する社会的な認知度や理解が低いのが実態ではないだろうか。中国メディアによると、記者だった20代の黄雪琴さんは上司からわいせつ行為を受けた経験や、ほかの女性記者がセクハラ被害にあったことなどを公開したが、職場などで「女性側に衣服の露出が激しかったから」などと原因を被害者に押しつける風潮があったと指摘した。

 上海市内で同じ男から3回も身体を触られた、と昨年ネットで告発した20代の徐雅露さん。5年前のことた。痴漢行為を警察に通報したが、現場に来た男性警官は「(加害者は)年寄りだから」と言って取り合わなかった。再び同じ男から被害にあい、男を取り押さえると、やじ馬からは「老人に暴力をふるうな」などと逆に、徐さんが激しく非難された。そのためか警官は男を見逃したという。

 徐さんの発言も閲読数が100万回を超えたというが、数日後にネット上から削除された。女性たちの間で共感を覚える動きがでて警察批判につながることを当局側が警戒した可能性が指摘されている。セクハラに対する社会的な意識の低さもあるが、当局による言論統制の疑いが濃厚だ。

 3年前には、北京や広東省でセクハラ防止や雇用面での男女差別撤廃を訴えた女性団体のメンバー5人が公安当局に一時、身柄を拘束される問題が起きた。治安を乱したことが拘束の理由とされたが、社会運動に対する当局の警戒がにじんでいる。セクハラに対する法的な定義もあいまい。職場でのセクハラ被害の告発は「労働争議」と扱われることがあり、法的保護対象にならない恐れがある。

 社会統制を強化する習近平指導部は、人権や言論の自由への抑圧を強める姿勢をみせている。「#MeToo」を中国で安易に模倣することは、政治的リスクも伴うのが現実。「告発元年」の行方が気になる。(上海支局長 河崎真澄)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする