カトリック神父が少年に性的虐待 東京サレジオ学園で2人の元園児が被害を訴えていた
文春オンライン 2019/2/19(火) 7:00配信
3月9日発売の 文藝春秋3月号 で、私は「カトリック神父『小児性的虐待』を実名告発する」というレポートを発表した。イタリアに本部を置く世界規模の修道会が東京・小平で運営する児童養護施設「東京サレジオ学園」に50年以上前に在園した竹中勝美氏(62)が小学4年だった当時、元園長のトマス・マンハルド神父から1年間にわたって受けていた性的虐待のなまなましい実態を語った。
男性神父が未成年の少年に性的関係を迫る性的虐待は、米国、アイルランド、ドイツなどカトリック信徒が多くいる国々を中心に十数か国に広がっているが、これまで日本では新聞の国際面のニュースと受け止められ、「対岸の火事」に過ぎなかった。だが、それは誤った認識だったのだ。
日本人として初めての告白
今回日本人として初めて被害を明らかにした竹中氏の告白には、大きな反響があった。私の元には、カトリック信者のみならず、プロテスタントの牧師や仏教の僧侶たちからも「他人事とは思えない」という多くのメールやツイートが寄せられた。それらの反響は、同じような被害体験を抱え込んで苦しんでいる人が全国に存在している可能性があることを示唆していた。
「事実をあかるみに出してくれた竹中さんの勇気に敬意を表する」と共感を示すもの、あるいは「組織にメスを入れるときだ」という教会に厳しいもの、そして「被害にあわれた方々が癒されること、加害者が誠実に犯した過ちを認め謝罪することが必要です」というシスターからのメッセージもあった。
東京サレジオ学園からの回答
雑誌が発売されて6日後の2月15日金曜日の夕刻、東京サレジオ学園から一通のメールが届いた。そこには「1月10日に受信した取材願いに回答する」という旨が記されていた。じつは私は取材の過程で東京サレジオ学園に質問状を送っていた。「竹中氏への虐待を認めるか」、あるいは「竹中氏以外にも被害者はいたのか(調査はしたのか)」などについて問う内容だが、締め切りまでに回答を得ることができず、今回のレポートには反映できなかった。
今回、東京サレジオ学園側がA4判用紙3枚にわたって書き綴った回答を通じて、新たな事実が発覚した。竹中氏以外にも2人の元園児の男性が被害を申し立てていたというのだ。
性的虐待は事実なのか? の問いに対し…
重要な内容なので、一問一答を以下に示そう。まずは竹中氏が告白したマンハルド神父による性的虐待は事実なのか、という問いにはこう回答した。
〈虐待があったとされる時期からは50年以上の年月が経過しており(略)私共がお答えするのは非常に難しく、そのような事実を確認する事ができなかった、という事しかお答えできない〉
注目すべきは竹中氏への虐待について「事実を確認する事ができなかった」とする点だ。マンハルド神父は病のため晩年帰国し、1986年、西ドイツ(当時)ロッテンブーフの修道院でぼうこう癌のため亡くなっている(享年73歳)。事実を立証する当事者がいないため、“真実は藪の中”というのである。
レポートでも述べたが、竹中氏は性的虐待を受けた直後から結婚して子供ができるまでの約20年間、虐待を受けたトラウマから体験した性的行為の記憶を「ないもの」として暮らしていた。
30代半ばにふとしたきっかけから起きたフラッシュバックによって一連の記憶を取り戻してしばらくした2001年、竹中氏は学園に対して事実や被害の広がりを調査するよう申し立てたが、その際も学園は「確認できません」と返答した記録が残っている。
“真実は藪の中”なのか
では、東京サレジオ学園はどのような調査をしたのか。回答にはこうある。
〈2001年の調査におきましては、7名の方から回答を得ましたが、性的虐待があったとする証言は得られず、(略)今回(=2019年)も、1972年3月に作成された名簿における同級生の方のうち、電話番号が記載されていた6名の方に対して改めて電話連絡を試みましたが、連絡をとる事ができませんでした〉
不可解なことに、「調査対象がどの時点での園児なのか」、「調査対象は何人なのか」などが明らかでない(重ねて電話でも問い合わせたが、園長は「手元に資料がない」と述べた)。どれだけの卒園生に対してどのようなかたちで問いかけたのか。調査方法もわからなければ、調査が信頼に足るものかどうかも判断がつかない。性的虐待が「なかったこと」を立証するわけでもなく、「確認できなかった」の言葉が4回も繰り返し登場する。
竹中氏以外にも2名の卒園生が虐待を訴えていた
ただ、これまで明らかでなかった事実も回答によって明らかになった。「竹中氏以外の子供」への虐待についてのくだりである。
〈2000年前後に、2名の卒園生(いずれもその時点で30年以上前の卒園生でした)から身体的虐待、性的虐待の申し出がございました〉
〈お2人ともに真摯に対応、調査しましたが、性的虐待につきましては、竹中氏に対する件と同様、事実を確認することはできませんでした。他方、身体的虐待については、当事者が認める形で事実が確認できました〉
東京サレジオ学園側は、加害者が誰であるかについては明らかにしていない。その加害当事者が「暴力をふるった」ことは認めたが、「性的虐待をしたこと」は、やはり「確認できなかった」とのみ回答している。
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今回新たに発覚した2人の被害者も竹中氏のケース同様、“真実は藪の中”だが、客観的な第三者による公正な調査を経た上での結論とは言いがたい。だが、東京サレジオ学園からの回答は〈改めて事実調査を行うことは現実的に難しいと考えておりますが、司教協議会の指示に従います〉と締めくくられている。つまり、今後、事実関係を明らかにする可能性は残されている。
アイルランドでは議会が設置した独立委員会が調査にあたり、ドイツでは3つの大学による研究チームが教会に残された書簡や資料を検証して被害実態を明らかにした。日本でもこうした海外の先例に倣い、誠実で包括的な対応がなされるのだろうか。
被害者の覚悟の告白を実りにつなげるために、被害の全貌を明らかにする努力が払われることを願ってやまない。