【特集】“先生が先生にいじめ” 神戸市特有の人事方式…「変な雰囲気」学校現場で一体何が?教諭間いじめ問題
MBSニュース 2019/12/20(金) 18:50配信
神戸市立東須磨小学校の教諭同士で起きたいじめ問題。本来いじめを防ぐ側であるはずの先生がいじめを行っていたということで、大きな衝撃が走った。東須磨小学校の職員室で何が起きていたのか、そこには神戸特有の人事方式があった。
「激辛カレーを目に」「熱湯入りやかんを…」被害は約50項目に上る
神戸市立東須磨小学校で、2018年から2019年にかけて、20代の男性教諭は先輩教諭らから悪質ないじめを受けてきた。加害側とされるのは30代〜40代の先輩教諭の男女4人。
教諭4人は後輩の男性教諭に激辛カレーを無理やり食べさせたり目にこすりつけたりしたほか、熱湯入りのやかんを顔に押し付けたり、首を絞めて呼吸困難に陥らせたりするなど、男性教諭が訴える被害は約50項目に上るという。いじめに耐えかねた男性教諭は休養を余儀なくされた。
被害教諭をよく知る男性は、教諭らから受けた行き過ぎたいじめに憤る。
「半年前、1年前と比べて見るからに痩せこけていて、すごく暗い感じになっている。車で(職場に)行くときがあるが、駐車場で出勤前に吐くとかは日常だと聞いていました。なぜ被害者が体に拒否反応が出るまで何も誰も支えなかったのか、それがすごくおかしいと思います。」(被害教諭をよく知る男性)
“執拗なセクハラ”被害を訴える教諭も
被害者は1人だけではない。20代の女性教諭は、加害側のうちの1人である30代の男性教諭から執拗なセクハラを受けていたという。
「生理の日とか、もう生理かなという時に『そうなんじゃないか』みたいな感じで言われるとか、1度だけじゃなくて何度も何度もあった。肩をたたかれる、腕をつかまれるとかもあったし、しゃがんでる体勢から足でお尻を持ち上げる感じで触れるとか。」(被害を受けた20代の女性教諭)
「変な雰囲気」作り出した?神戸特有の人事方式
なぜ、教諭間でいくつものいじめが起きたのか。取材班は、2018年まで東須磨小学校に勤務していた女性に内情を聞いた。この女性は「職員室に漂う異様な雰囲気」を感じ取っていたという。
「変な雰囲気でしたね。電車で会って『おはようございます』と挨拶しても挨拶がないとか、帰りに駅のホームで一緒になっても無視というか避けられている状態。職員間のコミュニケーションが全然取れていない職場だった。」(元同僚の女性)
自身もパワハラを受け、東須磨小学校を退職したというこの女性。元凶は神戸特有の人事方式だったと話す。
「前々校長のお友達人事ですね。自分のお気に入りの教員を呼んできて土壌を作り、そこに前校長が入った。そこでヒエラルキーが確立されましたね。“神戸方式”っていう人事があるのは普通だと思っていたので、特殊なところに身を置いていたんだなと感じました。」(元同僚の女性)
“神戸方式”で集められた加害教諭ら4人
神戸市では他の自治体と違い、教諭が校長に希望校を伝え、校長間の相談で異動が決まるという人事方式をとっている。この“神戸方式”は教育委員会の権限が及びにくく、招かれた教員が校内で強い力を持つこともあると問題視されている。加害教諭ら4人全員が神戸方式で以前の校長に集められた。
いじめが起きた背景には、神戸方式に加え、教員たちのいびつな年齢構成に原因があると専門家は指摘する。
「少子化という波が現れて、先生たちの年齢構成がバランスの良いものではなかった。」(神戸大学 山下晃一教授)
小学校の教諭の年齢構成は10年間ほど(2004年〜2016年)で大きく変わり、50代が減った代わりに加害教諭4人の属する30代〜40代が大きな比率を占めるようになった。
「もし年配の人たちがいらっしゃったら、たしなめてくれたり、別の形で発散させてくれたり。平たく言うと抑えがきかない、あるいは40代50代の方が本来されていた学校組織の雰囲気づくりが、どうも30代の方にシフトしてしまっていた。こういう教育だからこそ起こってしまうものをきちんと見定めて、その弊害をどういうふうに少なくしていくか、こういう丁寧な議論と分析が必要だと思うんですね。」(神戸大学 山下晃一教授)
しかし、市が真っ先に手を付けたのは原因究明ではなく、目の前の“火消し”だった。
有給休暇扱いに批判集中…市が急いだ“火消し”
教諭同士のいじめの問題は連日報道され、加害教諭に対する市民の怒りは頂点に達していた。市や東須磨小学校、さらに周辺の学校にまで数百件の苦情や問い合わせが来たという。中でも批判が集まったのは…
【Twitterへの投稿文より】
「有給扱いはおかしい」
「有給休暇を与えるというのは怒りしかわかない」
問題発覚後、加害教諭4人が有給休暇扱いで学校を休んでいることだった。迅速に懲戒処分するため調査委員会を立ち上げたものの、実態把握には1か月以上が必要だった。市としてもこれ以上“炎上”を野放しにしておくことができなかった。
「この行為のおぞましさから考えて、到底市民の理解を得られるものではありません。」(神戸市 久元喜造市長 2019年10月24日)
市長は職員の処分を規定する条例の改正を2019年10月28日に議会に提案し、内容について精査される暇もなく翌日の29日には即可決され、この条例をもとに加害教諭4人の給与が差し止められた。
調査結果延期で加害教諭の処分は先送り
一刻も早く事態を収束させたい神戸市。しかし、12月20日に公表される予定だった調査結果は延期となった。教育委員会が被害教諭の訴えを記した手紙約10点を反映できなかったことから再調査となり、加害教諭の処分は先送りとなった。
「正直あきれ果てましたね。もう言語道断ですよ。できるだけ早く調査結果がまとまることを期待しています。」(神戸市 久元喜造市長 12月18日)
学校の不祥事を研究する教育学の専門家は、「今後、学校をどう建て直していくかの議論が抜けてしまっている」と指摘する。
「とにかくあの手この手で火を消そうという感じですよね。それはわかるんだけど、では消した後、焼け野原になったところはどうやって再建するんですかって。市長と教育委員会の上層部が本来議論すべきことは、改めて神戸市の教育界として子どもの命を守る取り組み、あるいは教職員の命を守る取り組みは『こういう形でやっていきます』『今回の事件を踏まえて学校をこういうふうに変えていきます』というその中身を発信することなんじゃないですかね。」(京都精華大学 住友剛教授)
先生が先生をいじめるという「おぞましい」事件を二度と起こさないためには何をするべきか。その方針はいまだ見えてこない。
(12月19日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)