校長セクハラ逮捕 「上司が加害者」想定せず対応フロー運用 校長という特殊性 口にできず1年半

校長セクハラ逮捕 「上司が加害者」想定せず対応フロー運用 校長という特殊性 口にできず1年半
京都新聞 2020/5/30(土) 21:05配信

 部下だった女性教諭に対する強制わいせつの疑いで滋賀県の草津市立小の元校長が逮捕された事件で、草津市内の公立小中学校の学校現場ではセクハラ相談があった場合、校長ら管理職を通して市教育委員会に報告する流れを念頭に運用されていたことが分かった。市教委は「校長が加害者側になることを想定しておらず、セクハラに対する認識が欠けていた」とし、新たな指針を作成するという。

 市教委が念頭に置いていた運用体制は、各校に教職員の相談員を1人配置。被害相談を受けた相談員が校長ら管理職に事案を報告し、さらに市教委に報告する流れだった。今回逮捕されたのは当時の校長本人だったが、市教委は不祥事防止を指導する管理職側がわいせつ行為をすることは想定していなかったという。

 元校長は5月12日、当時20代の女性教諭の胸を触ったり、キスをするなどしたとして、強制わいせつ容疑で滋賀県警に逮捕された。被害にあった女性教諭は取材に対し、職員室で触られるなどエスカレートしたが、1年半近く周囲に被害を口にできなかった苦しみを語っている。

 直属上司のセクハラ
 草津市教委の対応フローには、相談者が直接、県教委に相談する方法なども盛り込まれている。しかし、市教委は「各学校の相談員には研修で伝えていたが、学校全体にどこまで周知されていたか分からない」とする。市教委教育部の畑真子理事も「自分が相談する立場になっても、外部へ相談するという発想にはなかなかならないと思う」と話す。

 今後、市教委は新たな指針を作成するとともに「県教委や市の外部相談員など、外部の相談窓口の活用を積極的に呼び掛けていく」としている。各校でセクハラ被害についての聞き取り調査も検討しているという。

 職場でのセクハラの加害者は、被害者よりも地位が高いケースが多いという事実が、被害者への調査から浮かび上がる。労働政策研究・研修機構(東京都)が2015年に行った被害者アンケートによると、職場でのセクハラの加害者は「職場の直属上司」が24・1%で最も多く、「直属上司よりも上位の上司、役員」を加えると計41・3%に上った。

 わいせつ行為と校長の特殊さとは
 京都市の私立の通信制高校では12年、女性講師が校長からわいせつ行為を受け精神障害を患い、京都地裁が当時の校長と学校法人に賠償を命じた。大阪市では、女性教職員2人にわいせつ行為をした市立小の校長が11年に懲戒免職になり、13年にも市立小の公募校長が児童の母親らへのセクハラで更迭された。

 女性の労働環境に詳しい同機構の内藤忍副主任研究員は、草津市教委の相談体制について「職場ごとに校長というトップが置かれる特殊な環境下で、相談者が不利益を被らないような配慮が足りず、男女雇用機会均等法が義務付ける、適切な対応をするための措置が不十分」と指摘する。

 同機構のアンケート調査によると、被害者側の対応として「我慢した、特に何もしなかった」が63・4%を占めた。内藤副主任研究員は「被害者は不当な解雇や異動などの報復を恐れて相談できない場合も多い。真に相談しやすい窓口をつくることが求められている」と強調する。

 元校長は今年2月、今回の被害者へのわいせつ行為で滋賀県教育委員会から懲戒処分を受けたが、県教委は「被害者が公表を望んでいない」として公表せず、京都新聞社が情報公開請求した際も、氏名や校長の肩書を黒塗りにし、教育現場のトップだった事実を伏せた。一方で被害女性は「非公表は望んでいなかった」と話し、教委側の対応を疑問視する。

 外部専門員の活用 市民団体が改善要望
草津市立小の元校長が強制わいせつ容疑で逮捕された事件を受け、同市の市民団体「くさつ☆パールプロジェクト」は28日、再発防止に向け、相談体制の改善や外部専門員の活用などを求める要望書を市と市教育委員会に提出した。

主な要望内容は、継続的な研修▽訴訟などに発展する可能性を視野に入れた記録の作成保管▽プライバシー保護や早期の問題解決につなげる外部専門員の活用▽教職員へのアンケート調査と被害者カウンセリング、相談窓口の設置と周知▽今後の体制改善に向けて意見を反映させるための外部チームの設置―など。

代表の重原文江さん(72)は「教職員の心身ともに健康で人権に配慮された職場環境を整備、提供することは社会の責務だ」と訴え、川那邊正教育長は「すべての教職員が安心して仕事ができる体制や仕組みづくりが大事。しっかりと取り組みたい」と話した。

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