見えない性被害…4割以上が「教師から」…訴え、表に出づらく
産経新聞 2020/8/2(日) 19:00配信
教員による児童・生徒への性的暴力は、元々上下関係があるため被害の認識が持ちにくかったり声を上げづらかったりするため、実態が外部に伝わらないという特徴がある。過去に男性教師からわいせつ行為を受けていた経験を持つ女性が行ったアンケートでは、4割以上が「教師から性的被害に遭ったことがある」と回答。わいせつ行為を起こして懲戒処分となった教員の数も過去最多となっているが、「氷山の一角」だという見方も根強い。
「経験してから犯罪だと気づくまでに、すごく時間がかかった。怖い出来事が起こると、(被害者は)向き合えるまでは避けて生きている」
中学生時代、通っていた札幌市立の中学校で男性教師にわいせつな行為を受けた東京都在住のフォトグラファー、石田郁子さん(42)は、自身の経験を踏まえて未成年が性被害を外部に訴えることの難しさを強調する。
自分が受けていた行為が性暴力だったと認識したのは、20年以上たってからだった。石田さんはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、損害賠償を求めて昨年、教師と札幌市教育委員会を提訴した。
だが、被害から20年以上経過しているとされたため、民法上の損害賠償請求権が認められず敗訴。現在は東京高裁で争っている。
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自分と同じような被害者をこれ以上増やさないためには、被害の実態を広く知ってもらう必要がある。石田さんは今年5月、こんな思いからインターネット上で実態調査アンケートを実施した。
10〜70代の726人の有効回答を得たが、これによると、学校の教師から在学中や卒業後に性的被害に遭ったことがあるかという問いに対し「ある」と答えた人は実に42・4%に上った。
具体的な被害の内容については「体や容姿に関することあるいは性的な発言・会話をされる」が41・1%、「体を触られる、触らせられる」が29・2%、「衣服をめくられる、触られる」が8・5%、「性的な行為をされる、させられる」が7・7%だった。
学校以外で塾や習い事、スポーツ教室などのコーチや先生からの被害を「ある」と答えた人も17・3%いた。
「男性教諭に服を脱がされた」「レイプされた」「胸が大きい、安産型といわれた」「部活で生理を揶揄(やゆ)された」「体育の授業で女子だけ水着で長くいさせられた」…悲痛な声が多く寄せられ、女性だけでなく男性からも被害の訴えがあったという。
石田さんは「授業中に性的な言葉を書かされるなど、大勢の人がいるところで被害に遭うケースもある。その場で笑い飛ばせないような内容で、大人、それも教育者がしているということに、非常にがっかりした」と話す。
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文部科学省によると、児童・生徒へのわいせつ行為などを理由に処分を受けた公立小中学校・高校などの教員は年々増加傾向にあり、平成30年度には282人と過去最多を記録した。
事案公表や処分の基準が自治体によってまちまちだったり、問題を起こした人物が再任用されるケースもあり、文科省は、特に児童生徒に対するわいせつ行為を起こした教員は懲戒免職とするよう、指導を強めるとしている。
昨年度に千葉県教育委員会が公立小中高校・特別支援学校の児童生徒を対象に行ったセクシャルハラスメントに関する実態調査によると、教師に「セクハラを受けた」と感じた児童生徒の数は前年度比164人増の588人と、2年連続で増加している。
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ただ、成人である教師と未成年の児童・生徒は決して対等な関係ではなく、ある種の「支配関係」の元に成り立っている。このため、被害が明るみに出ないケースは多いとみられる。
「目上の人から『かわいい』『付き合いたい』『結婚したい』などの言葉を言われると、断ったりするのが難しい。『恋愛』を性暴力の口実に使っており、言われる側は圧迫感や苦しさを感じ、追い詰められる」。石田さんはこう指摘する。
石田さんは7月9日、法務省が設置した「性犯罪に関する刑事検討会」に出席し、自身が受けた被害についてアンケート結果を提出。「子供の安全に関することなので、文科省が法律を変えるなどしっかりと対応してほしい」と再発防止を訴えた。(大渡美咲)