岡山の高2自殺「野球部監督の激しい叱責が原因」 第三者委
毎日新聞 2021/3/26(金) 12:49配信
2012年7月に岡山県立岡山操山(そうざん)高校(岡山市中区)の野球部マネジャーだった2年生の男子生徒(当時16歳)が自殺した問題で、県教育委員会が設置した第三者調査委員会(委員長=新阜(にいおか)真由美弁護士)は26日、「自殺の原因は、畏怖(いふ)していた当時の野球部監督からの激しい叱責などにあった」との報告書をまとめ、県と県教委に提出した。
報告書によると、男子生徒は野球部に選手として入ったが、監督の男性教諭から遠征先で「お前なんか制服に着替えて帰れ」と言われるなど、度々怒鳴られ「耐えられない」と12年6月に退部。他の部員から戻るよう誘われ、翌月にマネジャーとして復帰した。
その後も監督から「1回やめたんじゃから、覚悟はできとるんじゃろうな」と言われ、「(練習中に)声を出さなかったら存在価値はねーんじゃ」などと叱責された。炎天下のグラウンドに一人残されて「きちんとマネジャーの仕事をしろ」などと怒鳴られ、マネジャーになって2日後だったこの日の夜に自殺した。下校時、他の部員に「もう俺はマネジャーじゃない。存在してるだけだ」と話したという。遺書はなかった。
第三者委は、グラウンドに残して叱責した行為が「体罰に該当する可能性が高い」と認定。監督のこれらの行為によって、生徒は自分に存在価値がないという考えや野球部内での孤立感を深め、自殺するに至ったと結論付けた。監督の言動については「教員という立場を利用したハラスメントだった」とも言及した。
◇両親「息子の無念に少しは寄り添えた」
この問題を巡っては、県教委が調査し「行き過ぎと言われても仕方のない指導や発言があった」と遺族に回答したが、指導と自殺との因果関係は不明とした。これに対し、遺族は第三者委による再調査を繰り返し要望。知事が第三者委の設置を決め、自殺から6年後の18年8月から、第三者委が当時の生徒らへの聞き取りなどを進めていた。15年には岡山弁護士会が「監督の叱責は人権侵害」と認定している。
生徒の両親は岡山市内で記者会見し、監督の叱責が原因と認定したことについて「息子の無念に少しは寄り添えてあげられた」と評価しつつ、「第三者委の設置が遅すぎたため、元生徒のみなさんの記憶が薄れ、私たちが知らない事実を十分に究明できなかったことは残念」と述べた。今後については「調査結果を踏まえ、学校と県教委から詳しい説明を受けたい。何年たっても子供を失った無念や怒りはなくならない。安心して子供を預けられる学校にしてほしい」と訴えた。
一方、県教委の鍵本芳明教育長は報道陣に「最初の段階で生徒の悩みを察知して支援する体制ができていなかった」と述べた。【益川量平】
◇相談窓口
・いのちの電話
0570-783-556=ナビダイヤル。午前10時〜午後10時。
0120-783-556=フリーダイヤル。午後4時〜同9時。毎月10日は午前8時〜11日午前8時、IP電話は03-6634-7830(有料)まで。
・日本いのちの電話連盟
https://www.inochinodenwa.org/
・全国のいのちの電話(一覧)
https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php
・東京自殺防止センター(NPO法人国際ビフレンダーズ)
03-5286-9090=年中無休、午後8時〜午前2時半(月曜は午後10時半から、火曜は午後5時から)。
https://www.befrienders-jpn.org/
以下、この家族の苦難の9年間の記録
男子の自殺を巡り、県教委は13年2月、野球部監督が「マネジャーの仕事をしろ」と繰り返し叱責していたことを確認した上で「自殺との因果関係は不明」と発表した。第三者委の設置に関しては県が県教委への設置を提案する一方、遺族側は17年5月、中立性を保つため、知事部局へ設置するように要望。両者間で委員の人選を含めて在り方を協議していた。
男子生徒が亡くなった後、学校側は、監督を務めていた30代の体育科教諭らに話を聞いた。両親から詳細な原因を知りたいと申し入れを受け、10月末から11月にかけて野球部員に対して、県教委職員による聞き取り調査を実施。部員から「今までで一番怖い監督」「野球をよく知っていて指導はしっかりしてくれている」などといった回答があったという。
同校によると、6月に野球部を退部した際、生徒は「野球部にいる意味がない」と監督に伝えた。しかし両親には「監督が嫌だった」とも話し、さらに7月にマネジャーとして野球部に復帰する際、生徒は両親に「マネジャーなら叱られなくなくて済む」と打ち明けていたという。
学校側は、体育科教諭が厳しい口調で部員を指導していたことを認めた上で、「亡くなった生徒にだけ強く指導していたということはない。生徒によって受け止め方がさまざまだ」としている。広本校長は「学校による調査では限界を感じている。客観的に判断できる第三者に調査をお願いしたい」と話した。今後については「保護者や生徒への説明会を開きたい。指導のあり方について見つめ直したい」と話した。
県教委は生徒の両親の要望を受け、昨年10〜11月に部員全員(24人)の聞き取り調査を実施した。
その結果、生徒は退部前、他の部員に「監督に怒られるのが嫌で、辞めたい」と漏らしていたことが判明。復帰した日も監督からミーティングで「マネジャーなら黒板くらい書け」と叱られたほか、自殺直前の7月25日の練習中には「声を出せ」と注意され、練習後も一人呼び出され指導を受けていたことがわかった。生徒はその日の帰宅途中、他の部員に「俺はマネジャーじゃない。ただ存在するだけ」と話したという。
また、監督は練習中に別の部員に対して「殺す」などの言葉を使ったり、パイプ椅子を振りかざしたりしていたという。県教委に対し、監督は「気合を入れるためで厳しい指導や叱責は指導の一環だ」と説明。11月中旬に監督を退いた。