「救世主」か「乗っ取り屋」か 樟蔭東学園事件で大阪特捜が追及する“学校ロンダリング” 

「救世主」か「乗っ取り屋」か 樟蔭東学園事件で大阪特捜が追及する“学校ロンダリング” 
産経新聞 2013年3月25日(月)9時0分配信

 【衝撃事件の核心】「救世主」は「学校乗っ取り屋」だったのか。学校法人・樟蔭東学園(大阪府東大阪市)から不適切な融資を受け、学園に計3億8千万円の損害を与えたとして、大阪地検特捜部が背任容疑で理事の小山昭夫(81)と前理事長の高橋努(67)の両容疑者を逮捕した。主犯とみられる小山容疑者は過去にも、別の学校の経営再建の立役者として迎え入れられながら、怪しい金の動きから学校が文部科学省から“処分”されたことがあった。樟蔭東学園関係者は「人材育成に活用すべき学園の資産を個人の財布代わりにされた」と憤る。生徒らの授業料をロンダリングするかのような資金繰り−。特捜部の追及は大詰めを迎えている。

 ■「救世主」として登場

 平成16年6月21日。ある学校法人が経営難を理由に民事再生法の適用を申請し、教育界の話題をさらった。だ。

 注目の的になったのには理由がある。

 学園大では同年4月、文科省が大学設置認可をめぐる虚偽申請の疑いを公表。その後の文科省や学園大の調査で、認可申請の書類に記載された法人資産約63億円のうち、約41億円の寄付金が金融機関からの借入金などで、二重帳簿により財務状況を良好に見せかけていたことが判明した。

 実態は職員の給料の支払いにも窮し、法人が抱える負債は約250億円超。大学存続が危ぶまれるがけっぷちの状況だった。

 そこに支援者として現れたのが、医療法人グループを運営していた小山容疑者だった。

 経営陣刷新後に「救世主」として迎えられ、再生計画に基づき学園大の再建を進めた。しかし、理事長に就任した17年度以降、次第に「別の顔」が明らかになっていった。

 ■「不適切融資」と「見せ金」

 学園大は17、18両年度、理事会を開かずに、小山容疑者が経営する医療法人グループに計7億8千万円を融資した。融資金は返済されたが、文科省は管理運営が不適切として、19、20両年度にわたって補助金を交付しなかった。

 さらに、では、15年度に開設された健康科学大をめぐる見せ金疑惑が持ち上がった。当時学院の理事長を務めていたのが、小山容疑者だ。

 大学の開設には50億円の財源が必要だったが、学院側はこれを寄付金で用立てたとして文科省に開設を申請、認可を得た。

 ところが、寄付金とされた50億円が、実際は企業や個人からの借入金だった。借入金での大学設置は文科省告示で禁じられている。しかも、そのうち30億円は約1週間で出資元に返却された。大学開設の財源の多くは、十分な資金があると文科省に見せかけるための金だった。

 文科省は借入金での大学設置を禁じる基準に違反したとして、学院に対し、問題発覚後の21、22年度に補助金を不交付としたほか、26年度の審査まで大学や学部、学科の新設を認めない決定をした。

 2学校のエピソードには、樟蔭東学園の事件を見る上のキーワード「救世主」「不適切融資」「見せ金」が如実に表れていた。

 ■意に沿わない役員はクビ

 小山容疑者は樟蔭東学園でも当初、「救世主」のような立場だった。

 今度は学校法人・藍野学院(大阪府茨木市)の理事長として登場。19年11月、知人の紹介で、学園の当時の理事長と「基本合意書」なる文書を交わした。経営難だった学園側に藍野側から2億円を融資するのと引き換えに、学園の経営権を譲り受けるという内容だ。

 合意により人事権を握った小山容疑者は、理事などの役員に藍野学院の部下らを配置。21年4月には、人事案に反対した新理事長を「経営感覚が欠如している」として、就任4日後の本人不在の理事会で解任を決議したこともあった。

 「言うことを聞かない理事らは息のかかった役員を通じてクビにしていた」。元理事はこう振り返る。

 人事権を掌握した小山容疑者は、次第に学園の資産を動かし始める。

 22年2月、学園は、運動場約1万2千平方メートルを約22億6800万円で売却する契約を家電量販会社と締結した。学園は当時、日本私立学校振興・共済事業団や小山容疑者などから計約13億円を借り入れており、運動場の売却益を元手に借金を返済したというわけだ。

 しかし、この売却の目的は単なる借金返済にとどまらなかったとみられる。

 ■捕らえられた実質支配者

 ある学園関係者は「(小山容疑者は)もともと学園の資産狙いで近づき、運動場を売ったのではないか」といぶかしむ。

 運動場の売却によって借金を返せただけでなく約9億7千万円が学園に残った。しかし、当初は運動場の一部を売却する方向だったのが、小山容疑者の指示で運動場の全面を売るよう変更されたという。

 そして、この残った売却益から小山容疑者に対し、総額3億8千万円が融資された。小山容疑者が融資のために、余分に運動場を売却させた疑いがある。

 小山容疑者は逮捕前の産経新聞の取材に対し、「親族が理事長を務めていた藍野学院の寮の建設に必要だったため、融資話を仲介しただけ」と答えていたが、そもそも学園の融資の目的にふさわしいものだったのかどうか。さらに、一連の融資は理事会の議決を経ておらず、無担保で行われた「不適切な融資」だった。

 3億8千万円に追加融資を加えた借入金4億3千万円の返済が滞ると、堺市内に所有する山林で代物弁済した。しかし、文科省が山林の価値を疑問視し、「不適切な代物弁済」などとする背任罪での告発を受けていた特捜部が関係先を家宅捜索すると、小山容疑者は昨年11月、学園側に現金で4億3千万円を入金した。

 ただ、この入金の陰では、小山容疑者と学園側との間で、小山容疑者が山林を学園側に売却する話ができていたとみられている。いったんは入金したものの山林の売却で金をリターンさせるという「見せ金」の疑いが持たれている。

 「救世主」として登場し、「不適切融資」を行って「見せ金」で切り抜けようとした。しかし、特捜部は3月6日、実質的に学園を支配する立場にありながら不適切融資で損害を与えたとして、小山容疑者らを逮捕した。

 関係者によると、小山容疑者は逮捕容疑を否認しているというが、特捜部は起訴する方針だ。ある学園関係者は、忸怩(じくじ)たる思いで事件を見つめている。

 「学園の資産が食い物にされると分かっていれば、小山容疑者を学園に入れるのに反対したのだが…。人をだます人間は極めて紳士的に近づいてくる」

東大阪市の学校法人「樟蔭東学園」(高橋努理事長)が顧問の小山昭夫氏(80)に運営資金から計4億8000万円を不適切融資した問題で、小山氏が07年に学園の人事権を得るために使った2億円は、自身が理事長を務め、民事再生法の適用を受け経営再建中だった学校法人「東北文化学園大学」(仙台市)の運営資金を無断流用したものだったことが分かった。関係者は「経営再建中の学校の資金を私的流用するのは許されない」と批判している。

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