体罰に頼らぬ部活動指導は理想論か 現場の教師は思い複雑
福井新聞ONLINE 2013年3月31日(日)8時2分配信
「2極論でいいのか」
福井県内の小中高校での体罰実態が明らかになったことを受け、県教委は新年度から、公・私立の部活動について体罰に頼らない指導力向上策の議論に乗り出す。現場の教師は、児童生徒との対話や信頼関係の重要性を指摘しつつ「理想論だけでは無理」と複雑な思いを吐露。教育の専門家は「体罰はあくまで暴力」と強調し、保護者や地域を巻き込んだ人間教育の必要性を指摘しており、議論の深まりが期待される。
調査は昨年4月から今年1月末までを対象に実施。公立の小中高9校で13件、私立中高で13件の体罰があったことが分かった。公立では、部活動中にふざけていた生徒に顧問が平手打ちをしてけがを負わせたほか、別の部活で5年間にわたり長時間の正座や蹴るなどの行為があった。
福井市内の高校の部活動顧問の男性教員は「指導者を敬う、指導者に従う、という人間教育と競技指導の両輪がかみ合えば本来は体罰など必要ない」と言い切る。別の高校を県大会準優勝に導いた経験を持つ男性教員も「体罰をする指導者は一般的に指導力がないとされる。特に感情的になって力に頼るのは、生徒の人間性を否定すること」と反対の立場だ。
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一方で「子どもたちの奔放な行動を制御するために力は必要」との意見は根強い。過去に体罰をした経験を持つ40代教員は「荒れた学校を立て直すには、生徒に高圧的な態度で接することも必要。メディアは、体罰がいいか悪いかの2極論に終始しているが、理想論だけでは語れない現実もある」と訴える。
体罰容認の声は保護者からも聞かれる。インターハイ出場経験がある強豪高校に娘を通わせる40代男性は「勝ち負けが重要なスポーツの世界には、ある程度の厳しさはやむを得ない」との立場。(娘の部活でも)体罰があったという話は耳にしているが「子どもは言わなかったから、こちらからあえて確認はしなかった」と言う。
今回、問題が大きく取りざたされたことで、指導者が必要以上に萎縮することを危惧し「厳しい指導ができなくなれば、部活動が成り立たなくなる」とも話す。
根底には日本の精神文化
「手の付けられない生徒を力で押さえてくれる先生は、他の教員も頼りにする。保護者も自分がそうして育ってきたから当たり前と感じている」。福井大教職大学院の森透教授は体罰がなくならない背景をこう語る。
さらに「体罰なしで全ての子どもを指導できるのか、教員も保護者も確信を持てていないのが現実だろう」と分析。体罰問題を突き詰めれば、日本の精神文化の在り方に行き着くとして「学校だけでなく社会全体の価値観、人間教育の本質的な議論にまで広げていかなければ問題の本質は解決しない」と訴える。
県教委が新年度に設置する部活動指導力向上会議(仮称)が、そうした議論にまで踏み込むかが指導力アップの鍵を握りそうだ。