“恐怖のシュークリーム”女性教師だけを襲う「眠り病」…なお残る謎

“恐怖のシュークリーム”女性教師だけを襲う「眠り病」…なお残る謎
産経新聞 2013年11月27日(水)12時30分配信

 大事な会議や式典の途中に突然眠り込む。昼間に襲う過度の睡魔は「ナルコレプシー」の病名で知られるが、その症状が女性ばかりに、しかも局地的に起きていたらどうだろう。舞台は大阪市立加美北小学校(同市平野区)。原因不明の体調不良はシンプルにこう名付けられた。「眠り病」−。昨年6月には40代の女性教諭が職員室での会議中に机に突っ伏し、眠りこけるどころか意識不明に陥ってしまう。だがこの時、“奇病”の原因が素人目にも明らかになる。謎の答えは直前に食べたシュークリーム。配ったのは同僚の女講師だった。

 ■女性教諭襲う「災厄」とシュークリーム

 「教諭の指導方法では子供たちは育たない。邪魔で仕方なかった」

 シュークリームに睡眠導入剤を混入したとして、大阪府警平野署は14日、傷害容疑で同校の音楽担当講師の女(60)を書類送検した。

 導入剤は家族に処方されていたブロチゾラム1錠。効き目が強い薬のため、通常は半分に割って飲む。女講師は「体調不良になって早退すると思った」と供述しているが、被害に遭った女性教諭には効き目があまりに強すぎた。

 女性教諭は眠り込んだまま呼びかけにも応じず、同僚が実家までタクシーで運んだが意識は戻らない。病院に搬送され、9日間の入院を余儀なくされた。診断名は「急性薬物中毒」だった。

 病院から通報を受けた同署は女性教諭の血液を鑑定。服用した覚えのない導入剤の成分が検出されたことから薬物混入事件として本格的な捜査を開始した。

 女性教諭は約1カ月間の休職の後、昨年7月に職場に戻ってきた。しかし、災難はまだ終わっていなかった。復帰から10日もたたないうちに、運動靴と指導用の教科書に黒マジックで「バカ」「ヤメロ」と落書きされた。警察の捜査で後に判明することだが、これも女講師の仕業だった。

 身の回りで次々と起こる凶事は、女性教諭に一つの確信を抱かせる。同年8月、女性教諭は校長に打ち明けた。

 「あの講師からもらったシュークリームに入っていたとしか考えられない」

 ■1年余りも無策の「現状維持」

 市教委によると、女性教諭は女講師と働くことへの不安を訴え、「離れたい」とこぼしていたという。だが事態はここから1年にわたり膠着(こうちゃく)状態に入ってしまう。

 小学校によると、女講師は指導力に定評があり、保護者の評判もよかった。一連の事件に女講師がどう関与したのかも不透明。結果、学校が取った選択肢は事なかれの典型ともいえる現状維持だった。

 そんな中、年をまたいだ今年4月には新たな事件が起きる。職員室のロッカーに無施錠で保管していた。一緒にあった他の22学級の調査書は手つかずだったという。

 しかし、学校はここでもまだ動かなかった。

 「小学校では落書きはわりと頻繁にあり、だれがやったか分からない状況だった。調査書の紛失もまったく別の問題として考えていた。だれが犯人かは警察に任せていた」(市教委)と歯切れが悪い。

 一方で警察の捜査も鈍かった。平野署が女講師から任意で事情を聴いたのは8月1日になってから。女性教諭が「あの人だ」と確信してから、実に1年の歳月が過ぎていた。

 女講師は1回目の任意聴取で事実関係を一部認めたという。市教委はこれを受けてようやく女講師に自宅待機を指示した。

 ■式典で気を失う教諭たち、なお残る謎

 女講師はなぜ、これほどまでに女性教諭への憎悪を募らせたのか。指導法の違いや態度への不満という供述はあるものの、具体的な動機は明らかではない。

 さらに大きな謎は女講師が同校に着任した平成16年以降、女性ばかり複数の教諭が経験した「眠り病」だ。

 捜査関係者らによると、学年の会議や入学・卒業式の途中で突然体調を崩したり、気を失ったりして、病院に搬送されたケースもあるという。しかし、今回と違って他の教諭から被害届は出ておらず、女講師との因果関係も不明。物証もなく、同署は事件化はしない方針だ。

 市教委の担当者も「処分を決める上で講師から聞き取り調査はする」としているが、眠り病については「あくまで処分を決めるために立件された内容に沿って話を聞くだけ。捜査機関ではないので独自に新たな事実関係を調べるのは難しい」と及び腰の姿勢は相変わらずだ。

 女講師の敵意は1人の女性教諭だけに向けられていたのか、あるいは無差別的だったのか。小学校で起きた一連の奇妙な出来事は、いまだ白昼夢のように、とらえどころがない。

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