川口春奈『アンサンブル』クズ野郎を “やさしい男” と描いてしまう、脚本の「致命的な欠陥」【ネタバレあり】

川口春奈×松村北斗という旬な役者を揃えて1月18日(土)にスタートした『アンサンブル』(日本テレビ系)。 法廷ものも恋愛ものも手垢がつきすぎているジャンルだから、その2つを融合して「リーガルラブストーリー」にするというアイデアは、百歩譲ってヨシとしよう。 しかし、それをやるなら、綿密に練り込まれた高度な脚本がマストになると思うのだが、第1話から雑なストーリーで、被告となったゲストキャラの心情が支離滅裂。 「恋愛トラブルで裁判シーンをやる!」というお題目が最初にあって、そこから逆算して登場人物を描いているから、キャラ崩壊を起こしたのではないか。 ■【ネタバレあり】被告側の彼氏がキャラ崩壊 小山瀬奈(川口春奈)は恋愛トラブルを得意とする、現実主義者のクールな弁護士。 第1話は、両親との顔合わせの最中に彼氏が突然逃げ出し、婚約破棄されたので慰謝料を請求したいという女性からの依頼。受任したところ、彼氏側の弁護士は新人の真戸原優(松村北斗)だったという展開。 瀬奈は原告側の弁護士、真戸原は被告側の弁護士のため、通常であれば対立関係になる。だが、明るく実直で理想主義者の真戸原のペースに瀬奈が巻き込まれていき、なぜか協力してトラブル解決に奔走することに。 筆者がキャラ崩壊していると感じたのは、彼氏だった被告の二瓶隆也(中尾明慶)だ。 ネタバレをすると、二瓶は10年前にひったくり事件で逮捕歴があり、しかもそのときのひったくりに遭った被害者が、偶然ながら後に婚約者となる原告の光永有彩(森迫永依)だった。二瓶と有彩は交際を始めた段階ではまだお互いが加害者と被害者だと気づいておらず、愛し合っていたという複雑な関係。 ところが、両親との顔合わせの日に、二瓶がひったくり犯だと知る人物が現れた。結婚して一緒になったら、これからもずっと事件のトラウマを有彩に思い出させてしまうと考え、愛する彼女のために泣く泣く身を引いたというのが真相だった。 ■慰謝料100万円を払うのが惜しくて裁判に… 要するに、二瓶は愛する有彩のためを想って姿を消したわけで、ここまでの心情は、まぁ理解できる。だが、理解できなくなるのはここから。 有彩は不当に婚約破棄されたとして、100万円程度の慰謝料を請求するのだが、二瓶はそもそも婚約していた事実はないと主張して突っぱねていたのである。 第1話後半では7分以上の尺を使って法廷シーンが描かれた。正面に裁判官がいて、原告側には瀬奈含め2人の弁護士、被告側には真戸原含め2人の弁護士、後方には傍聴人が10人以上。ドラマでよく見る裁判の現場である。 よくよく考えてもらいたいのだが、二瓶が素直に慰謝料100万円を払うと言えば、こんな大掛かりな裁判を開廷する必要はなかった。恋人のためを想って姿を消したはずの人間が、100万円払うのが惜しくて拒否し、さらに「婚約なんてしていない」と虚偽の主張をして裁判までやることに。当然、恋人はより精神的苦痛を受けたことになる。 恋人を傷つけないために身を引いたというキャラが、思いっっっきり恋人を傷つけまくるという矛盾。なんじゃこりゃ、と思ってしまった。 ちなみに閉廷後、二瓶と有彩は泣きながらハグして復縁。脚本家としてはそこで感動させたかったのだろうが、むしろドン引き。だってそいつ、保身で100万円出し渋っていた男なんだから。 ■高難度なテーマに手を出すからこんなことに どう考えても最低のクズ野郎なのに、劇中では恋人想いのやさしい男という描かれ方をしているので、キャラ崩壊だけでなく演出崩壊もしていた。 法廷ものと恋愛ものをミックスするという高難度なテーマに安易に手を出すから、こんなつたなくチープなストーリーになってしまったのではないか。 今夜放送の第2話では、夫が妻の10年前の不倫に対して慰謝料請求する内容になるようだが、第1話のような支離滅裂なキャラが出てこないことを祈るばかりである。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

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