働く人にとどまらず、求職者や顧客ら企業に関わるハラスメント対策の強化を急ぎたい。 厚生労働省は、就職活動中やインターンシップ(就業体験)中の学生を「職場での雇用管理の延長」と位置づけ、全企業に対してセクハラ防止策を義務付ける。就活生らは、社員ではないため対策の対象外だった。 また、顧客らが理不尽な要求をする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)から従業員を守る対策を義務化する。 一連の関係法改正案を、通常国会に提出する方針だ。 就活生へのセクハラ対策としては、学生と面談する際のルール策定や相談窓口の設置と利用の周知、被害に対する謝罪対応などを盛り込む。 就活生が志望先の社員から性的嫌がらせを受ける「就活セクハラ」は、2019年に大手企業の社員らがOB訪問した女子学生にわいせつ行為や乱暴をしたとして逮捕される事件が相次ぎ、社会問題化した。 20〜22年度卒業の元学生への厚労省調査では、男女とも3割以上がセクハラ被害を受けていた。主な内容は、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗(しつよう)な誘い、性的な関係についての質問などだった。 加害者は、インターンで知り合った社員が3割余り、採用担当者も2割を超えた。就活生と社会人をつなぐマッチングアプリを通じて面会し、被害に遭うケースもある。 共同通信の主要106社調査(22年)では、4割近くが就活生との面会や連絡のルールを設けていなかった。 深刻なのは、被害を受けた4人に1人は誰にも相談できていないことだ。就職活動での不利益を恐れる学生が泣き寝入りしている実態が浮かび上がる。 希望する会社に入りたい就活生の思いにつけ込む卑劣な行為は、断じて許されない。 年々、人権意識が低くハラスメントへの対応が鈍い企業に対して、就活生だけでなく、国民の視線は厳しくなっている。企業の積極的な対応が問われる。 カスハラは「顧客や取引先らが行う」「言動が社会通念上相当な範囲を超える」「就業環境が害される」など3要素を満たすものと定義した。 セクハラやパワハラなどとは異なり、顧客らの正当な苦情との線引きが難しかったが、定義をもとに対応方針を明確化し、被害に遭った従業員の相談体制づくりにつなげる。 このほか、従業員101人以上の企業には、管理職に占める女性比率や男女の賃金格差について公表するよう義務づける。 中身の実効性とともに、今回は含まないとした就活生へのパワハラなどについても国会で十分な議論をしてほしい。 来月1日は「就活解禁日」。若い人たちが憂いなく働ける社会へつなげたい。