1963年に女子高校生が殺害された「狭山事件」で、「部落差別が生んだ冤罪(えんざい)」を訴え、裁判のやり直しを求める途上で、86歳で亡くなった石川一雄さん。無念の死を悼む講演会が5日、埼玉県加須市内で開かれた。人権派として知られる徳田靖之弁護士は、石川さんの死亡で終了した第3次再審請求が19年を費やしながら結論を出さなかったことに「差別的で前例がない」と司法を批判、今後の第4次再審請求について「裁判所を変えていく戦いだ」と力説した。 市民グループ「北埼玉地区狭山裁判を支援する市民の会」の主催。石川さんの支援者ら108人が参加した。 徳田氏は大分県弁護士会所属。ハンセン病国賠訴訟や薬害エイズなど国を相手取った人権救済訴訟を勝訴に導いた。冤罪(えんざい)訴訟にも携わり、その一つが再審請求に取り組んでいる菊池事件だ。52年に熊本県内で起きた殺人事件で、ハンセン病とされた男性が無実を訴えたまま、国立ハンセン病療養所に開設された特別法廷での死刑判決が最高裁で確定し、62年に執行された。 講演のテーマは「差別が生み出した冤罪事件の構造を探る」。徳田氏はまず、狭山、菊池両事件の共通性について、「狭山事件(狭山)では、被差別部落への差別意識に根ざした見込み捜査が行われ、菊池事件(菊池)ではハンセン病患者への差別、偏見が露骨にあった」と指摘。 その上で、(1)捜査機関が取り返しのつかない致命的な失策を犯した=狭山では身代金を奪いに来た犯人を取り逃がし、菊池では被害者が狙われる可能性がありながら保護を怠った(2)捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)が考えられる=狭山では、最重要証拠の被害者のものとされる万年筆は事件1カ月後の3回目の家宅捜索で唐突に見つかったが、インクは被害者が使っていた種類と違っていた。菊池では、凶器は草刈り鎌とされていたが、解剖所見で短刀とされると、指紋、血痕のない短刀が発見された(3)両事件とも身内を逮捕するという脅しによる強引な取り調べが行われた――などの問題点を挙げた。 これらを踏まえて、裁判官について「死刑が想定される事件で、犯人でない者が罪を認めるわけがないし、捜査機関が重要証拠を捏造(ねつぞう)するわけがない、という思い込みに支配され、それが再審の『厚い壁』になっている」とし、「袴田巌さん(66年の一家4人殺害事件で再審無罪が確定した)の再審無罪などでも明らかになったように、警察は証拠を捏造し、検察はそれを隠すことがある。そのことを裁判官に認識させることが重要だ」と述べた。 石川さんの妻が引き継ぐ第4次再審請求については「裁判所の差別性を暴き出す戦い。裁判所と戦うという意識を忘れてはならない。私も菊池事件を通して、狭山裁判をともに戦いたい」と連帯の姿勢を示した。 また、被差別部落の歴史に詳しい黒川みどり静岡大名誉教授が「現代社会における部落問題」をテーマに講演し、「差別が残っているにもかかわらず、差別問題がないかのように『無化』する動きが社会で進んでいる」と問題提起した。【隈元浩彦】