子供の性被害について、毎日のようにニュースが流れる。厚生労働省の2020年度の調査では、「性被害に遭う子供は1日1000人以上」という推定データが出されるなど、日常的に起こっているのに見えづらいのが子供の性被害なのだ。 「ふらいと先生」としてXで14万人のフォロワーを持つ小児科医の今西洋介さんは3人の娘の父でもある。今西さんの新刊『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』は、エビデンスを基に子供の性被害について考える画期的な内容だ。 * * * ――タイトルに「みんなで守る」とあります。大人や社会が子供たちを守る視点が大切ですね。 今西 世の中には知られていない性被害がたくさんあり、被害者の多くが子供です。私は昨年、研究のためにロサンゼルスに移住しましたが、海外では子供の人権がしっかり守られています。 アメリカのある研究者は「小児性被害は100%予防可能な社会課題です。ただし、社会全体で対策に取り組めば」と言いました。「小児性暴力の根絶に必要なのは、社会の変容である」という意味だと思います。アメリカでも子供の性被害が多いですが、対策が取られています。 一方、日本では法律も整備されていないですし、訴えを起こしても5割弱が不起訴になっています。 ――具体的にアメリカではどんな対策があるんでしょう。 今西 例えば学校にはスクールポリスが常駐しています。また、子供から「家でぶたれている」と言われたら、担任の先生は24時間以内に校長に報告しなくてはなりません。報告を受けた校長は72時間以内に警察に通報する義務がある。 言い換えれば、自分の責任を果たしたら、それ以上、先生が抱え込む必要はない。訴訟社会なので役割と責任の範囲が明確です。 ――虐待や暴力を受けた子供のための施設「チャイルドアドボカシーセンター(CAC)」は素晴らしい取り組みですね。 今西 CACは全米で1000ヵ所以上、設置されていますが、日本では全国で2ヵ所だけです。私もカリフォルニア州のCACを見学に行きましたが、とてもきれいでしっかりした施設でした。国とカリフォルニア州から公的援助が入っていて、交通違反の罰金からもCACに資金として入るようなスキームができています。 日本のCACは法的な位置づけのない組織なので、運営資金が国や自治体から入りません。善意の寄付だけで運営しているので、数も増やせません。公的な資金を入れる仕組みが必要だと思います。 小児性被害を立件する難しさは、子供自身がつらい経験を証言しなくてはならないこと。アメリカのCACの司法面接では児童相談所職員、警察官、検察官、医療者で構成される多機関連携チームが、虐待を受けた子供への聞き取りを別室で見守ります。被害について何度も話さなくて済みますし、事実の究明や医師の診断も可能になります。 日本でも司法面接を導入すべく、神奈川県にあるCAC「つなっぐ」が奮闘なさっているところです。 ――なぜアメリカにはCACが1000ヵ所もあるのですか? 今西 それは「推定有病率」で政策を決めているからです。小児性被害は暗数がとても多く、疫学調査は困難ですが、それでもさまざまな手法で「性被害によってトラウマやPTSDを持つ子」の人数を推定することはできる。そこから必要なCACの数を算出し設置しているんです。 本書では厚労省やこども家庭庁、警察庁、法務省などさまざな調査のデータを紹介していますが、まだ足りません。日本でも小児性暴力についての大規模調査とその結果の分析が必要だと思います。