旅客運送事業としては共通しているバスとタクシーだが、その様子はじつに対照的といっていいだろう。 働き手不足などのトピックが多いなか、テレビのニュースなどではとくに一般路線バス事業を営むバス事業者が取り上げられることが多い。 そこで取り上げられる運転士の多くは、バスの運転が大好きでバス愛が深いところがクローズアップされている。父親の背中を見て、同じバス事業者へ運転士として入社して、親子でバス運転士をしているというというのも取り上げられているが、事実、このようにバス愛が強い運転士は多くいて、親子でバスの運転に従事している例があるのは、筆者でも運行現場を訪れて見聞きしている。バスが特別好きではなくとも、社会インフラの一翼を担うといった強い使命感のなか、日々運行に従事する運転士もそれほど珍しくないようだ(もちろん仕事として割り切っている運転士もいるが……)。 一方のタクシー業界は、あくまで全体の印象であるが、クルマの運転が好きというひとはバス業界に比べると限定的なものであると感じている。いまも数が少ないものの現役で走っている、Y31型日産セドリックタクシーにはフォグランプが標準装備されているのだが、これがどのような役目を果たすのか理解していない運転士も目立つようだ(どうやったら点灯するのかもわからない運転士もいたとか)。 また現場で話を聞くと夏場に、「エアコンが利かない」と訴えてくる運転士の車両をみると、ACボタンが押されていないなど、クルマが好きかどうか以前のような話もよく耳にするほど。 ただし、現状では十分に運転士が集まっていないとしながらも、都内では事業者が増車を行っていくほど、タクシー業界は一時の深刻な運転士不足から脱却しつつある。 かつて3K(きつい・危険・稼ぎが少ない)仕事と呼ばれたタクシー運転士だが、スマホアプリ配車サービスに加盟している事業者では年収1000万円もまさに夢ではなくなってきており、3Kから2K(きつい、危険)に変わってきていることも大きい。さらにキャッシュレス決済の普及に伴い、現金を以前ほどもち歩くこともなくなってきたので、タクシー強盗に遭う頻度も少なくなってきている。となると、すでに1K(きつい)になっているともいえる。 ドライブレコーダーの普及により、事故対策のほかタクシー目当ての当たり屋対策も効果的となり、車載カメラの搭載で酔客などによるドライバーへの暴行などでも被害届を提出しやすくなった。そこにスマホアプリが加わり、稼ぎ方が大きく変わった。デジタルツールの普及はまさにタクシー業界に革命を起こしたといっていいだろう。 タクシーは雇用の調整弁といわれているほど流動性の高い職業である。普通免許があれば二種免許取得は容易でもあるので、不況でリストラなどが進むと即正社員にもなれる。クルマの運転が好きか嫌いに関係なく、門を叩くひとが多くなるのだ。しかも前述したように1Kは残るものの、女性も以前より働きやすくなっているので、女性運転士も最近では多い。 クルマが好きだからというような、こだわりの少ないひとが多く集まるからこそ、そして最近ではリスクが減って稼げる仕事となったので、バス業界よりはひとが集まりやすくなっているように見える。