韓国の憲法裁判所は4日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(64)に対する国会の弾劾訴追を裁判官の全員一致で妥当と判断し、尹氏を罷免する決定を言い渡した。尹氏は直ちに失職し、60日以内に大統領選挙が実施される。 韓国で大統領が罷免されたのは、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に次ぎ2人目。 尹氏は昨年12月3日に非常戒厳を宣布し、約6時間後に国会の要求に従って解除した。野党はこれを「内乱行為」に当たると非難。尹氏の弾劾訴追案が同月14日、国会で可決された。それを受け、憲法裁が弾劾の妥当性を審理していた。 尹氏側は裁判で、非常戒厳は実際に執行されることを意図していない、形式的なものだったと主張した。 憲法裁はこの日の決定で、尹氏が非常戒厳の宣布において、正式な手続きを踏まなかったと判断。また、当時は国の非常事態ではなく、軍を出動させる以外の方法で解決できた状況だったのに、尹氏が非常事態時の権限を行使したとした。 そして、尹氏が軍部隊を送り込んだのは「国会の正当性に対する侵害」だとし、尹氏を「職務を守らず、守るべき国民と敵対した」と断じた。 決定を受け、尹氏は弁護団を通して声明を発表。「皆さんの期待に応えることができず、本当に申し訳なく、残念に思っている」、「愛する国とすべての国民のために、私は常に祈り続ける」とした。 弁護団の尹甲根(ユン・ガプグン)弁護士は、「この裁判のすべてが合法的ではなく、不公正だった」、「決定は法の観点からはまったく理解できないものだ」と記者団にコメント。「完全に政治的な決定で遺憾だ」と付け加えた。 大統領の職務は、大統領代行を務めている韓悳洙(ハン・ドクス)首相が、次期大統領が選出されるまで続ける。 ■喜びと怒りと 憲法裁の決定を受け、裁判所前では尹氏の罷免を求めてきた人々らが歓声を上げ、抱き合い、旗を力強く振るなどして喜びを表現した。 一方、尹氏を支持する人々には怒りと涙が広がり、不満の声や叫び声が上がった。「不当だ!」と声を張り上げる若者や、「韓国は終わった」と言う人もいた。現地メディアによると、尹氏の支持者の1人が怒りから、警察のバスの窓を損壊し、逮捕された。 現地メディアによると、大統領代行の韓氏は今回の決定を受け、治安維持のための緊急命令を出した。政権として安全を維持し、国の安全保障と外交に空白を作らないようにするとしている。 最大野党・共に民主党は、憲法裁の決定を国民の偉大な勝利だとした。韓国の聯合通信が伝えた。同党議員で、国会の弾劾訴追委員を務め、裁判で意見陳述をした鄭清来(チョン・チョンレ)氏は、「憲法、民主主義、そして国民の勝利だ」、「民主主義の敵を、民主主義を使って倒した国民に感謝したい」と述べた。 一方、与党・国民の力は、裁判所の決定を受け入れ、国民に謝罪すると表明した。 尹氏は、非常戒厳の宣布が内乱罪に当たるとして、今年1月に刑事起訴された。この裁判は現在も続いている。尹氏は1月に身柄を拘束されたが、3月8日に釈放された。 ■尹氏は去る、だが韓国の危機は残る――ジーン・マケンジー・ソウル特派員 憲法裁の決定が出た。当面の問題は、尹氏と支持者らが、それを受け入れるかどうかだ。 尹氏と弁護団は、裁判所と闘い、法制度が崩壊していると訴えてきた。尹氏の熱烈な支持者らは、裁判所が偏っていると主張してきた。 もしそれらの人々が今日の弾劾を受け入れるのを拒めば、韓国の政治危機はさらに混迷が深まるだろう。 たとえ尹氏が受け入れても、韓国は今、憂慮すべき分断状態にある。大統領選は間違いなく紛糾する。 根拠のない陰謀論のせいで、国民の4分の1以上が、前回の総選挙で不正があったと思っており、現在の投票制度を信用しなくなっている。 この日の判決を、韓国の民主主義と制度の勝利を示すものだとする人もいるだろう。一方で、尹氏による非常戒厳の宣布によって、制度の欠陥が露呈したと懸念する人もいる。 昨年12月3日の一連の出来事で、韓国は根本的に変わった。戒厳令はもはや、暗い独裁時代の過去に秘められたものではなくなった。現実の脅威であり、熱狂的な政治家が振りかざすことのできる道具となっている。 韓国ではいま、憲法改正が真剣に叫ばれている。今回のような事態の再発を防ぐため、制度の強化と大統領権限の制限が必要だと、人々は訴えている。 現時点では、韓国がどれだけ早く立ち直れるかは、尹氏の対応次第といえる。 (英語記事 Jubilation and despair as South Korea president removed from office)