「(自動車の運転手は)道路を我が物顔で走ってて、気に入らねえなと思ったこともありました。昔は車の走行を邪魔してやろうという気持ちがありましたが、いまはありません。(いまは)そんなことを考えても無駄かなと思っています」 自転車で車の前に飛び出す妨害行為を繰り返し、「ひょっこり男」と呼ばれた成島明彦被告(37)は、公判のなかで、今回は運転を妨害する意図はなかったと主張したのだった。 「千葉県警柏署は’24年5月9日、成島被告を、自転車で走行中に乗用車の通行を妨害したとして道交法違反(あおり運転)の疑いで逮捕しました。4月15日に柏市の路上でセンターラインを越え、対向車線を走行。50代の女性が運転する乗用車に急接近し、通行を妨げたというものです。 柏市周辺では’24年1月から5月までの間に、自転車による危険運転の通報が40件以上、寄せられていました。成島被告が危険運転で逮捕されるのはこれで3度目です。 『自動車に嫌がらせをして快感を得たかった』と乗用車の前で蛇行運転を繰り返し、’19年9月に逮捕されて翌年2月に執行猶予4年の有罪判決を受けました。その執行猶予中にあおり運転で再び逮捕され、’21年5月に懲役8ヵ月の実刑判決を受けています。2度目の逮捕は、改正道交法で新設された『あおり運転』の規定が自転車に適用された初の事件として、注目を浴びました」(全国紙社会部記者) ’24年7月22日から、千葉地裁松戸支部で成島被告の公判が開かれている。そして’25年3月25日に被告人質問が行われた。 毛先に金色が残った長髪をひとつにまとめた成島被告は、小さい声でボソボソと話し、犯行の大胆さとは違っておとなしそうな雰囲気だった。弁護人との受け答えによると、柏署を右手に見ながら車道の左側を走行していた成島被告は、その先、国道16号線にぶつかると、右に曲がるつもりだったという。 ◆「癖で直せないんでどうにもできなかった」 「目的地に近道をするため(国道16号線にぶつかる前に)右側に寄って、数分、対向車線を走りました。しかし、車にぶつかりそうになったので進行方向に戻りました。車の運転を妨害する気持ちはありません」(成島被告) 検察官の「交差点の信号まで左側の車線を走って、そこで右に渡るという選択肢はなかったのか」という質問にはこう答えた。 成島被告「できる限り短い距離で走りたかったので、そういうふうな走行をしました」 検察官「どうして我慢できずにセンターラインを越えてしまったのか」 成島被告「癖です。癖で直せないんで、どうにもできなかった。また、(この癖が)出ることも考えられますが、やらないようにします」 検察官「今回の事件前後に、センターラインを突然、飛び出す運転をする人がいるとネットやテレビでニュースになっていたのは知っていましたか」 成島被告「知っていました。(報道やネットの書き込みを見て)いやな気持ちになりました」 何度、逮捕されても危険運転を繰り返す成島被告だが、地元を取材すると、「小さい頃は、おとなしい子だったのに」と困惑する声が、多く聞こえてきた。成島被告は両親と姉との4人で柏市内のアパートで生活していたが、すでにアパートは取り壊され、建売住宅になっている。 50代の女性は「あそこ(成島被告)のお母さんは、早くに育児放棄したんですよ」と声をひそめた。 「(成島被告が)まだ小さい頃からお母さんはパチンコにハマってほとんど家にいなかったんです。そのうち、彼氏ができて家を出て行ってしまいました。お父さんは仕事に行っていないので、昼間は子どもだけ。たまにお母さんがお弁当を持って、様子を見に来ていましたよ。 まだ成島君が小学校1~2年くらいの頃、雹が降って成島君の家の窓ガラスが割れたことがありました。(成島被告が)一人で割れた窓ガラスに段ボールをガムテープでとめて応急処置をしていたので、私が手伝ってあげたんです」 また成島被告と同年代の子どもがいる女性は「最初の逮捕を知ったとき、私が知っているアキちゃん(成島被告)と結びつかなかった」と、驚いたという。 「アキちゃん(成島被告)はもともと引っ込み思案で、私が子どもと手をつないで歩いていると、その2~3m後ろを黙ってついてくるような子でした。近くの公園で親子がキャッチボールをしていると、じっとそばで見ていて、『いっしょにやるか』と声がかかるのを待っているんです。 私の母が(私の)息子を連れてファミレスにご飯を食べに行こうとしたら、ずっとついてきたので『いっしょに食べる?』とごちそうしてあげたと話していました。寂しかったんでしょうね。 とにかく放置されたままなので、中学校では勉強についていけなくなって、同級生が教えたりもしたんですが勉強はできなかったということです。それにお姉ちゃんが早くからキャバクラで働きはじめたので、そのことでいじめられていたと聞きました」 逮捕されてから、「家族を含め、誰とも連絡を取っていない」と法廷で話していた成島被告。 近所の住人のひとりは「いまでも誰かにかまってほしくて、あんな事件を起こしてるのかな」と話していたが、ひとつ間違えたら「かまってほしかった」ではすまない大惨事になっていたかもしれない。 次回5月13日には論告求刑が行われる予定だ。 取材・文:中平良