教師による「スクールセクハラ」…なくならない理由は学校の「隠蔽体質」

教師による「スクールセクハラ」…なくならない理由は学校の「隠蔽体質」
産経新聞 2014年1月9日(木)12時0分配信

 「お風呂上がりか〜、俺には○○ちゃんが見える」といった親密さを通り越したメール、コミュニケーションを言い訳に太ももをなでたりする身体的接触、さらには婦女暴行まで…。これらはすべて、教師による児童・生徒への行為だ。性的な知識に乏しく、迫られても被害を回避する術すら知らない児童・生徒に対する教師からのセクシャルハラスメントは近年、文部科学省の統計で年間150件を超え続けている。これら「スクールセクハラ」と呼ばれる問題を専門的に対応する唯一の団体、=大阪府守口市=には年間約100件の相談が寄せられる。元教師で代表の亀井明子さん(66)は15年にわたり問題解決に尽力し続けてきたが、「学校の隠蔽(いんぺい)体質を変えなければ、スクールセクハラはなくなることはない」と警鐘を鳴らす。

 ■半ば強制「先生にチョコくれるんやな」

 亀井さんは昭和45年から大阪市立の中学校で保健体育の教師として教壇に立った。時折、女子生徒から「あの先生にお尻を触られた」といった相談を受けたこともあったが、駆け出しのころはセクハラへの知識も乏しく、「その先生には近づかんとき」とアドバイスする程度だった。

 そんな亀井さんがSSHPを立ち上げるきっかけとなったのは、平成7年に生徒から受けた相談だった。

 当時赴任していた中学校で、2学期の終業式間際、ラグビー部のマネジャーだった女子生徒3人が「もう我慢できない」と言ってきたのだ。

 40代の部活の男性顧問から「寒くないか」といって太ももをなでられたり、下着の色や形を聞かれたりするなどの行為を繰り返し受けてきたという。「怖い先生だから言い出しにくい」と約1年半我慢を続けたが、我慢も限界を超え、亀井さんに打ち明けた。

 その顧問は部活動の指導に熱心とされ、生徒らへのコミュニケーションも抜群にうまかった。ただ、バレンタインデーには、生徒同士でのチョコレート交換は禁止されていたにもかかわらず、自作の「先生へのチョコレートはこちら」といった旗を立てた段ボール箱を教室に置き、女子生徒からのチョコを募っていた。事前に女子生徒に「先生にチョコくれるんやな」と念押しした上で、生徒の名簿を準備。チョコをくれた女子生徒に○を付ける作業を生徒に指示していたことも耳に入った。

 亀井さんは、教師としての一線を越えた振る舞いに憤慨し、「そういうことはやめるように」と注意した。そのときは「分かりました」と納得した様子だったが、実は、顧問は前任校でもセクハラを繰り返していたという噂があり、亀井さんはその言動を警戒していたのだった。

 ■校長らは逃げの姿勢

 亀井さんは、マネジャーの訴えを受け、まずは生徒の保護者に相談することを提案した。そして保護者から校長に抗議があり、校長が顧問に説明を求めたが、「コミュニケーションのひとつだった」と強弁された。その後、校長に対応を求めたが動きはなく、亀井さんは同僚の女性教諭と連名で、冬休みで連絡の取れない校長の自宅に公開質問状を送った。しかし、反応はなく、3学期始めの朝の職員朝礼で、亀井さんは辛い現実にさらされた。

 校長が急に「亀井先生が顧問を追放しろと言ってきました」と口火を切った。「追放しろなんて、一切言っていません」と反論したが、問題の顧問が机を強く叩き、立ち上がった。「あんたは同僚を裏切るんだな」と、逆恨みともいえるような言葉を投げかけたのだ。

 そのとき、亀井さんをフォローしてくれる同僚はいなかった。その後、顧問の取り巻きのような同僚からは、生徒の前ですら「亀井先生は、あの先生を売った」と指弾され、校長に抗議に行こうとしても「やめておきなさい」と体を押さえられて止められた。

 「顧問は部活動の実績もあり、発言力が強かった。教師の世界では、平穏が一番。問題提起する人間を受け入れない文化があります」と亀井さんは言う。結局、顧問はその年の4月に別の中学校に転勤した。「学校独自の隠蔽体質により、問題教師を処分せず、定期異動に合わせて異動させるのはよくあります」と亀井さんは嘆く。結局、その顧問はさらに異動した別の学校でセクハラ問題が表面化し、停職1カ月の処分を受け退職した。

 ただ、亀井さんは「懲戒免職ではなかったので退職金は出た。それでも、再就職先として試験を受けた学校には注意は促した」といい、被害が再び起きないよう独自に注意喚起を行ったという。

 ■おかしいことを指摘できない教師たちに「情けなくて」涙

 この問題をきっかけに、亀井さんは学校を内側から変える難しさを痛感し、受け持っていた生徒が卒業する平成12年で早期退職することを心に決めた。退職の1〜2年前に発生した教師による生徒への暴力問題がさらに後押しした。

 教師にささいなことで嘘をついた男子生徒を激高した男性教師が暴行している−と、別の生徒が職員室に駆け込んできた。教室で殴る蹴るの暴行を受けていた生徒を上から抱きかかえ、男性教師を止めようとしても、教師は暴行を止めなかった。

 他の教師たちは騒ぎに気付いても見ているだけ。止めようとはしなかった。「おかしいと言うことができない教師たち。情けなくて初めて涙が出ました」と亀井さんは当時を振り返る。

 そこで、学校を外部から第三者として変えようと、現役教師だった10年から立ち上げたSSHPの活動に専念することになる。

 ■キーワードは「部活」「携帯」「車」

 文科省の統計によると、わいせつ行為で懲戒免職となった教師はここ数年150人を下回ることはなく、児童・生徒らの被害は後を絶たない。SSHPは電話相談を受けた後、カウンセリングを行い、当該の教育委員会や学校法人への相談の付き添い、裁判に訴え出た際の支援などを行う。

 SSHPが15年間の活動で解決に導いた案件は1200件を超えるが、「声を上げられるのは一部」(亀井さん)だ。相談を寄せるのは、被害にあった児童・生徒の母親が最も多く、次に高校生、被害を目撃した女性教師と続く。校長や教頭といった管理職から、どのように解決すればいいのかといった相談も相次ぐ。

 亀井さんが警戒するのは「部活・携帯・個人の車」の3つのキーワード。例えば、部活帰りで遅くなったときや悪天候の際、顧問の教師が「家に送っていく」という名目でマイカーに乗せ、車の中で体を触ったり、婦女暴行にまで至った事件や、携帯電話を教え子に買い与え、「2人だけの秘密だよ」とやり取りを繰り返すケースも増えている。

 そこで、子供らと教師を保護者の目の届かない“密室”に置かないことをアドバイスするという。携帯電話のメールでは教員から、「○○ちゃん、好きだよ」「お風呂上がりか〜、俺には○○ちゃんが見える」といったメールが、教え子に深夜にも届くといった相談も多い。

 亀井さんは「児童や生徒は、性的な被害は恥ずかしいという思いや、担任や顧問の先生に迷惑をかけたらいけないという思いから、周囲に相談できないことも多い。友人に相談し、その友人が母親に話し、母親同士の話で被害にあった子供の母親に『こういうことがあったようだ』と情報が届くこともある」と説明する。大人である教員が生徒の逡巡(しゅんじゅん)につけ込んでいる側面もあると指摘する。

 周囲から、「あの先生はいい人だ」「先生を退職させるのか」といった圧力がかかることがあることも、訴えを躊躇(ちゅうちょ)させる一因だという。

 深刻化するスクールセクハラでは、加害者の処罰に重きが置かれ、被害者の救済が見落とされがちだといい、亀井さんは「問題を的確に調査できる第三者、弁護士のような専門家が入って調査委員会を作るべきだ」と訴える。

 SSHPへの電話相談は毎週火曜、午前11時から午後7時まで。電話06・6995・1355、またはホットライン携帯電話090・4768・8626へ。

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