「緊縛保育」見抜けなかった行政 9カ月女児死亡の認可外保育施設
産経新聞 2015年3月18日(水)7時55分配信
宇都宮市の認可外保育施設で昨年7月、生後9カ月の山口愛美利(えみり)ちゃんが宿泊保育中に死亡する事故が起きた。この施設は事故前、「子供をひもで縛るなど不適切な保育をしている」と内部告発が寄せられていたが同市は実態を見抜けず、遺族は保護責任者遺棄致死罪などで施設の経営陣を告訴。施設側に加え、同市に対しても賠償請求訴訟を起こした。認可外施設をめぐるトラブルは後を絶たず、保育行政の構造的な問題を指摘する声もある。
愛美利ちゃんの両親のもとには事故後、毛布でくるまれて足などを縛られ、うつぶせになった子供たちの画像が、施設の元関係者から送られてきた。
平成24、25年に撮影されたもので、両親は写っていた子供のうち1人の親に連絡、撮影日時に施設に預けていたことを確認した。
愛美利ちゃんは発熱と下痢の症状が出て亡くなったが、施設側は体調が悪化した後も両親に連絡をしておらず、「もし娘も保育中に縛られていたとすれば、死因に関連している可能性もある」と疑念を抱く。
一方、宇都宮市には事故の約2カ月前、「子供をひもで縛り、食事も与えていない」などとする情報が寄せられ、市は事前に通告した上で立ち入り調査したが、「問題なし」と判断していた。
市の担当者は「事前通告は規定にのっとった措置。強制的に調べる権限はなく、調査には限界がある」と説明。今月11日に宇都宮地裁で開かれた訴訟の第1回口頭弁論で、施設側と市側はともに争う姿勢を示し、市側は「指導監督は権限であり義務ではない」などと反論した。
厚生労働省によると、全国で認可保育所を利用する子供は約227万人で、認可外施設は約20万人。26年中に報告された死亡事故は認可保育所の5件に対して認可外は12件で、死亡割合は約27倍に上る。
保育問題に詳しい明星大の垣内国光教授は「認可外施設は人件費のコストが低く、保育の質が低くなる場合が多い」と指摘する。こうした状況を受けて国は4月から、小規模施設への補助金給付などを盛り込んだ「子ども・子育て支援新制度」を本格施行する。
宇都宮市のケースについて垣内教授は、「人手が足りず、子供を動かなくすれば手間が省けると考えたのかもしれないが、ひもで縛るのは虐待同然。市が従業員や保護者にしっかり聞き取りすれば問題を把握できたはずだ」としている。