学校事故・事件で名ばかりの第三者委員会

学校事故・事件で名ばかりの第三者委員会
ニュースソクラ 2015年10月2日 16時10分配信

「形骸化」どころか疑惑隠しの温床に

 福島県教育委員会は先週末の26日、県立高校の女子生徒が部活トラブルが原因と思われる自殺をしていたことを公表し、詳細を調査するために第三者委員会を設置すると発表した。

 こうした学校事故・事件に関しての第三者委員会が設置されるようになったのは、2012年に起きた大津市でのいじめ自殺事件がきっかけだが、こうした事件の関係者からは「大津市以外はまともに第三者委員会が機能していない」という声が多く聴かれる。大体において、責任をあいまいにする「第三者委員会」になってしまうというのだ。

 東日本大震災で多くの児童が津波の犠牲となった石巻市立大川小学校。やはり、第三者委員会となる「検証委員会」では、遺族抜きで教育行政サイドの学者や民間業者などが中心になって組織された。

 「津波が来るから(高台である)山へ逃げよう」と訴えた児童がいて、その要望に応え「山へ避難しよう」と指示した同校教諭の指導があった。だが、「子供の記憶は変わるもの」などとして、適切な避難指示を出した教諭の行動を認めないという態度を石巻市の調査委員会は採った。

 当時小学校6年生の同校児童である次女を亡くし、現役公立中学校教諭でもあった佐藤敏郎氏によると、「山へ逃げよう」という避難指示は地域性などから現場教師が行うのは自然なことだという。しかし、調査委員会がこうした事実を認めようとしないのは、津波を予想して行動した人がいると、「津波が大川小学校にまで到達することは想定外だった」として、適切な避難指示をしなかった責任回避をする目論見が崩れてしまうからと遺族は受け止めている。

 大津市いじめ事件で第三者委員を経験した「尾木ママ」こと尾木直樹氏は、大川小学校での第三者委員会設置に際して、「第三者委員会はすぐにつくらないとダメですね。しかも、教育委員会でやるのではなくて、市長部局でやらなければいけません」(池上正樹・加藤順子著『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』ポプラ社刊・54ページ)と遺族らにアドバイスしている。

 何故、市長部局でやらなければいけないかというと、教育委員会に任せると教育委員ではなく実権を持っている事務局主導で事が進められてしまう。教育委員会事務局には指導主事と呼ばれる教員籍の職員がいる。彼らは学校長・教頭経験者、あるいは候補生となる人々だ。

 当然、日頃から指導主事は学校長らとは「ツーカー」の仲である。それどころか、指導主事経験は「先輩」という学校長もいて、現職の指導主事では、逆らえない力を持っている。

 事実、大阪市立桜ノ宮高校で起きた自殺の調査でもそれが露見している。バスケットボール部の主将の少年が自殺した問題では、体罰があるという通報が大阪市教委事務局に事件以前に寄せられ、指導主事が学校現場に確認に赴いたものの、指導主事経験のある学校長から体罰に関する情報調査を協力してもらえず、自殺を防げなかった。指導主事が「指導」を諦めたことが原因の一つとなっていたことは、記者も大阪市教委事務局の担当者から直接確認している。

 だが、尾木氏の言うように「市長部局」即ち自治体首長主導で第三者委員会が設置されても第三者委員会が疑惑隠しになる懸念は残る。一例を挙げると愛知県刈谷工業高校の部活トラブル(主に体罰)が原因で高校生が自殺しているケースがある。

 次男・恭平君(当時16歳)を自殺で亡くしたという山田優美子さんによると、「事件に関する調査委員会が二回発足しました。一度目は県教委が立ち上げ、委員が全て匿名で,医師・弁護士・臨床心理士とだけ自称しました。これに抗議して、二回目は大村知事に直接陳情した結果、知事部局が新たな調査委員会を立ち上げ、委員も公表されました。しかし、報告内容は部室でトランプをしていた生徒を殴る蹴るをしたというのと、試合中にエラーをした生徒を正座させた。という2件のみ。実際には常態化していた教師の暴力は明らかになりませんでした」と話す。

 2度も調査しながら機能しない「第三者委員会」。極論すれば、委員会は形骸化し、ケースによっては、「第三者委員会」は教育行政サイドが不祥事を覆い隠すために利用されているようにすらみえる。

 福島県教育委員会の先週末のすばやい対応は歓迎すべきことだ。しかし、事件は、教師や監督者による体罰があった可能性が濃い。教育委員会という、いわば教師の身内によって作られた第三者委員会が真実を隠してしまわないことを祈りたい。

角田 裕育 (ジャーナリスト)

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