【性暴力の実相】「前も教え子とできちゃったんですよね…」見過ごされた教師のわいせつ行為
西日本新聞 2016年7月22日(金)11時12分配信
「前も教え子とできちゃったんですよねぇ。われわれも扱いづらくて…」
中学生の娘ミサ(仮名)が教師から性被害を受けたと知り、40代の母親トモコ(同)が学校に訴えると、校長はこんな言葉を漏らした。あぜんとして言葉が出てこなかった。
数年前のこと。中日本に住むミサが所属していた中学校美術部の50代顧問は、お気に入りの生徒を自宅に呼んで個人レッスンをしていた。「芸大に行かせてやる」と誘われ、通い始めたミサ。父親以上に年が離れた相手に警戒心はまったくなかった。2、3回通ったころ、顧問から数十分間、無理やりキスされた。
「もっとひどいことをされたはず」とトモコは思うが、ミサはそれ以上話そうとしない。別の個人レッスン生も同時期、急に不登校になった。学校の対応に不信感を抱き、知り合いを介して教育委員会関係者の元へ駆け込むと、返ってきたのは「あの先生、そういう癖があるんです。今までもずーっとですよ」。
結局、顧問は複数の生徒へのわいせつ行為を認め、懲戒免職になった。「学校や教委は問題を把握していたのに見て見ぬふりをしていた。泣き寝入りしたら間違いなく被害は繰り返されていた」とトモコは憤る。
トラブルを起こしても処分されなければ記録に残らない
問題行動を起こした教師への対応はどうなっているのか。
九州の小学校で数年前、女児の胸を触った教諭が、子どもたちから「セクハラ」と訴えられたことがあった。「Tシャツを指さしたら当たっただけ」と釈明したため、校長の判断で情報が教師間で共有されることはなかったという。
当時、この学校で教壇に立っていた女性は「被害児童の立場で考えたり、接し方を議論したりする機会もなかった」と振り返る。同僚から漏れ伝わってきたのは数カ月後のこと。直後、この教師は転勤になった。
福岡、佐賀、熊本などの県教委によると、懲戒処分を受けた事実は人事記録として文書で残る。だが、その具体的な内容は校長同士の口頭の引き継ぎに委ねられているという。トラブルを起こしても、処分されなければ記録にも残らない。
九州のある自治体で教育委員を務めるミドリ(同)は異動時の引き継ぎに疑問を抱き、不祥事の内容をすべて文書にして学校間で渡すよう、教委の会合で提案した。「教員の再起を妨げるようなことはすべきじゃない」と一蹴された。
子どもたちが傷つけられてからでは遅すぎる
教師によるわいせつ行為が相次いだ長野県教委は2013年、不祥事の引き継ぎを文書で行うなど46項目の再発防止策をまとめた。非公表だった当事者への指導状況や懲戒に至らない問題行動も文書で残し、学校や県、市町村教委で共有するようになった。教職員への研修や啓発も徹底させているという。「それでも不祥事はゼロにならない」と担当者は漏らす。
九州の実態を知るミドリは、自らの町で被害が起きないか、不安を募らせる。「起こる前提で対策を取らないと、子どもたちが傷つけられてからでは遅すぎる」
長野県の取り組み
不祥事が相次いだ長野県教委は2013年、46項目からなる「信州教育の信頼回復に向けた行動計画」を策定した。問題を起こした教諭の情報を文書で引き継ぐようにしたほか、不祥事に気付いた教諭が相談、通報しやすい体制を構築する▽管理職の選任要件に組織管理能力を加える▽感情のコントロールの仕方など専門的な研修を実施する−ことなどを盛り込んだ。弁護士や臨床心理士など外部の専門家から最低年1回、意見をもらいながら、不祥事防止に努めているという。
西日本新聞社