体罰の部活顧問 復帰に再発の不安
朝日新聞デジタル 2018年5月10日15時51分
川内商工高校(薩摩川内市)のバレーボール部の顧問の男性教諭から体罰を受け、元男子部員(19)が県に賠償請求を求めた訴訟が、今年3月に和解した。しかし、体罰をして処分を受けた顧問は昨春、元部員に知らされないうちに部活の指導に復帰していた。部の「成績」を求める保護者が強く要望したといい、「勝利至上主義」が体罰の再発につながらないか、和解後も不安が残っている。
同校のバレー部は、県大会で上位争い常連の強豪校。奄美市出身の元部員は、全国大会出場をめざして2014年に入学した。
和解条項によると、男性教諭は15年4月に元部員のほおを平手打ちして口内出血などのけがを負わせた。同年10月には運動中にけがを負った元部員に「痛い痛いと言ってあまちゃんが」と暴言を吐き、治療を受けさせなかった。
元部員は昨年1月に県を提訴。県庁で会見した元部員は、体罰が常態化し、食事がのどを通らずに体重が7キロ減ったことや、死にたいと思ったことなど在学中の苦悩を語り、「二度と同じような思いをする生徒を出したくない」と考えての訴訟だったと強調した。
その教諭は16年2月に減給6カ月の処分を受け、昨年4月には「第2顧問」として部活に復帰した。
県教委によると、教諭は復帰前に約1年間、指導についての研修を受けた。県教委は「個別の指導方法は言えない」とするが、一般的には専門の指導員を学校に配置し、対象の教諭を指導するという。県教委は「部活で適切な指導ができない人は、普段もできない。部活も含めての『生徒指導』という観点で、生徒との接し方を指導している」と説明する。
しかし、復帰について元部員への連絡はなかった。
元部員の代理人の鈴木穂人弁護士は「原告側としては一番憤りを感じている部分」と話し、日本体育大の南部さおり准教授(スポーツ危機管理学)は「復帰するならば、被害にあった生徒が納得しないといけない」と指摘する。
元部員も「今まで通りでは、自分と同じ生徒が出てくる」と不安視する。
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教諭の顧問復帰を後押しした一つが、ほかの生徒の父母らだった。
鈴木弁護士によると、バレー部の保護者会は昨年2月、教諭の早期復帰を求める要望書を提出。要望書には「(教諭の指導で)今まで多くの栄冠を獲得している。先生に指導して頂きたいと遠方から入学している子がいるのも事実です」などとあったという。
元部員の母親は「勝利至上主義が保護者の中にもあるのが現実」と振り返り、「子どもが相談しやすいように周りの親の意識を変えることが大事」と訴える。
体罰問題に詳しい鹿屋体育大の宮田和信名誉教授(スポーツ文化論)は「学校が生徒の募集に苦心するなか、勝って有名になればPRになる。公立高も例外ではなく、スポーツに商業主義が入り込んだ結果、勝利至上主義の下に体罰がなくならない」と指摘する。
南部准教授も「我が子の将来を思う親の気持ちは理解できないわけではないが、自分の子が被害者になった時を想像してほしい。親が体罰を容認すれば、子どもの逃げ場がなくなる」と話した。
(野崎智也)