「強くなるには恋愛以上の関係必要」日本陸連コーチにセクハラ疑惑〈AERA〉

「強くなるには恋愛以上の関係必要」日本陸連コーチにセクハラ疑惑〈AERA〉
AERA dot. 2019/1/10(木) 11:30配信

 日本陸連のコーチが、高校の女子部員にセクハラを繰り返した疑いがある。アエラが得た証言や通信記録から、部員の母にまで愛人関係を迫る異常さが浮かぶ。

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 日本陸上競技連盟のオリンピック選手育成を目的としたU20(20歳未満)投てき部門コーチの秋本純男氏(43)が、教員を務める宮崎の高校で複数の女子陸上部員にセクシュアルハラスメント行為をしていた疑いが発覚した。被害者が本誌に語った証言によると、生徒に抱きついて局部を触ったり、LINEで執拗に好意を伝えたりしていたほか、生徒の母親にまで「愛人になれ」と迫っていたという。宮崎県教育委員会が調査に乗り出しており、東京五輪を間近に控えたスポーツ界に新たな激震が走りそうだ。

 秋本氏は順天堂大学で砲丸投げ選手として活躍し、同大学院などを経て母校の宮崎工業高校の教員になった。顧問として同校陸上部を全国有数の強豪校に定着させた指導力が評価され、日本陸連では強化委員会強化育成部オリンピック強化スタッフに就任。2017年5月にタイのバンコクで開かれた第2回アジアユース陸上競技選手権大会にも役員として参加していた。

 その秋本氏からセクハラ被害を受けていた現役の女子部員が12月初旬、本誌の取材に重い口を開いてくれた。

「1年生の入部当初から、秋本先生の自宅に頻繁に呼ばれ、Tシャツや靴などもよくもらいました。特に土日は『焼き肉するから泊まりに来い』と誘われました。同期の部員からは『お気に入りやねえ』とからかわれることもありましたが、指導者として尊敬していたし、奥さんや寮生もいたのでそれほど不思議には思っていませんでした」

 秋本氏は妻と2人の子供と暮らす自宅の一部を女子寮として使っており、自宅が遠方で通えない部員を何人か預かっていた。秋本氏は部員に男女恋愛禁止を徹底させる一方で、女子部員にはことあるごとにこう話していたと言う。

<コーチと選手は恋愛以上の関係じゃないと強くなれない、勝てない。陸上の世界では当たり前のことだ>

「強くなるには恋愛以上の関係必要」日本陸連コーチにセクハラ疑惑〈AERA〉

1/10(木) 11:30配信

AERA dot.

 女子部員が続ける。

「遠征の大会になると、ホテルの先生の部屋に呼ばれて、オイルを塗った手をTシャツの下から直接入れて肩甲骨のマッサージをされるようになりました。最初は普通のことなのかと思ってたけどだんだん嫌になって、大丈夫ですって断るんですけど、『やるぞ』とか半ば無理やりでした」

 決定的な事件が起きたのは、夏の高校総体、遠征先のホテルでだった。午後11時ごろに全体ミーティングが終わったあと、女子部員は1人残るよう指示された。

「なぜか私が男の人と付き合っていて、セックスをしたみたいな噂が流れていると問い詰められました。本当に誰とも付き合っていなかったので否定していたのですが、あまりの執拗さに『付き合ってます。しました』と嘘をついたんです」

 このとき、時計の針はすでに午前2時を指していた。

「私の言葉に、先生が『陸上やめていいぞ。帰っていいぞ』と言ったので立って帰ろうとしたらいきなり前から抱きしめられて。気持ち悪いので両手をブラーンとさせてたら、その手を取られて先生の腰に回されました」

 何を勘違いしたのか、このあと秋本氏は、女子部員に直接的な表現で好意を告げるLINEを繰り返し送るようになった。

「会いたかった」

「もう来れないのか?」

「かわいい」

「大好きぞ」

 それでも女子部員は親に訴えることができなかった。秋本氏が「親には言うなよ」「自分で責任を取れ」と厳しく指導していたためだ。(編集部・大平誠)

※AERA 12月31日−2019年1月7日合併号より抜粋

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日本陸連コーチがセクハラか 部員も母親も狙われた…教え子が証言〈AERA〉
AERA dot. 2019/1/10(木) 11:30配信

 日本陸上競技連盟のU20投てき部門コーチの秋本純男氏(43)が、教員を務める宮崎の高校で複数の女子陸上部員にセクシュアルハラスメント行為を繰り返していた疑いが発覚した。アエラが入手した部員の証言からその悪質な実態が浮き彫りになった。

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 我慢の限界に達した女子部員は18年夏、母親に陸上部をやめたいと全てを打ち明けた。ここで判明したのは、まさに驚くべき事実だった。

「母が怒って先生に電話してからは、しつこかったLINEもパタリとやみました。ただ母の様子が少し変だったので問い詰めると、私が1年生の後半のころ先生から『愛人になれ。オリンピック強化コーチの愛人になれるのはすごいぞ』と口説かれたというのです。私たちには恋愛するなと言うくせに、自分は奥さんがいるのに部員の母親を誘うなんて異常じゃないですか」

 自分だけならと我慢していた女子部員は、秋本氏が母親にまで手を出そうとしていたことに憤慨。仲の良かった卒業生に相談したところ、さらなる事実に仰天することになる。

 寮生として3年間、秋本氏の自宅に住まわされていたこの卒業生は、もっとひどいことをされていたのだ。彼女も、「今後二度と後輩たちが被害に遭わないために」と、当時のことを証言してくれた。

「寮といっても先生の家の鍵のかからない6畳間に先輩と2人で住んでいました。普段から、先生に抱きつかれることがよくありました」

 1年生の秋ごろ、夜の練習が終わり1人でいるところを秋本氏に呼び止められたという。

「普段と同じように両手を広げて抱きつかれて。『いや、大丈夫です』って断ると、その日はとにかくひどかった。首筋とかにキスされたり、下着の中に手を突っ込まれて触られたり。そういう経験が全くなかったので何が起こってるのかわかんなくて。先生は力が強いし、体もでかくて怖いし。時間がどのくらいかわからないけど、とても長く感じました」

 卒業生は続けた。

「一番記憶に残っているのは、先生が『触りたかったんだー』って言ったことです」

 ようやく解放された卒業生は、朝までトイレで泣き続けた。勇気を振り絞って登校したが教室には行けず、保健室に駆け込んだ。打ち明けられた女性の養護教諭は驚きながらも積極的には動かなかったという。

「自宅生の同期たちが『親に相談するしかないよ』と言ってくれたので、大会の時に観戦しにきた母に打ち明けました。当時、秋本先生には『強くなるためには親とも話すんじゃない』と連絡も取らせてもらえず、親が試合日程を独自に調べて応援に来てくれた時しかチャンスがなかったんです」

 母親は同校の生徒指導教諭に事実を打ち明けたが、学校側が秋本氏を処分することはなかった。卒業生はその後も秋本氏と2人きりになることを極力避けながら寮生活を続けざるを得ず、ストレス性の過呼吸や貧血に苦しめられたという。

 秋本氏は教え子2人の告発をどう受け止めるのか。今なお女子寮として部員を預かっている自宅を訪ねると、玄関先で太い二の腕を組んだまま約1時間取材に応じ、セクハラ行為を全否定して、こう述べた。

「マッサージ自体、保護者の目の前で肩関節を触るようなことはありますが、2人きりで密室でというのは相手が男子であろうが女子であろうが一切したことはありません」

「(女子部員は)男女恋愛禁止なのに自分が彼氏を作ったことを他の部員に見つけられて、自分の居場所がなくなることを恐れて、あることないこと話したというだけのことでしょう」

「彼女の母親に恋愛感情を持ったり伝えたりしたこともありません。自分の子供の面倒をきちんと見てほしいと伝えただけです。その子も卒業生の子も、精神的に浮き沈みが激しくて虚言癖があるんです」

 卒業生の母親に秋本氏の反応を伝えると、こう答えた。

「娘から打ち明けられたときは震えが止まらず、何であんなところに預けてしまったのかと後悔しました。当時は学校とも相談し、娘を傷つけずに最大限守れる方法を探りましたが、人質に取られているようで思い切った対処ができなかった。娘が当時、自分さえ我慢すればと最後まで耐えて卒業したことで、今回新たな被害者を生み出してしまった。にもかかわらず、自分の保身のために娘たちを嘘つき呼ばわりするなんて、許しがたいと思います」

 前出の現役女子部員は18年9月、一連のセクハラ行為について女性教員に相談した。だが校長ら幹部の動きは遅かった。女子部員はその後、県教委に直接電話で訴え、卒業生も県教委に詳細を証言している。秋本氏の処分はまだ決定していないが、県教委教職員課人材育成担当は取材に対し、こう答えた。

「数年前の卒業生の被害報告を県教委が把握していたかどうかも含め、詳細については調査中でまだお答えできません。しかし、今回の訴えを放置するようなことは決してありません」

(編集部・大平誠)

※AERA 2018年12月31日−2019年1月7日合併号より抜粋

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