なぜ続く、運動会の巨大組み体操 大阪で「助けて」の声拡散

なぜ続く、運動会の巨大組み体操 大阪で「助けて」の声拡散
産経新聞 2019/6/5(水) 12:01配信

 初夏の運動会シーズンを迎えた過去には大きな事故も起こっており、複数の自治体が段数制限や廃止などの対策に取り組む一方で、高い段数に挑戦し続ける学校も。巨大な組み体操はなぜ無くならないのか。(木ノ下めぐみ)

 問題になったのは、6月1、2日に運動会を行った東大阪市立小学校3校。いずれも7段のピラミッドを予定し、1校は5段タワーも練習していたが、5月29日にツイッターに書き込まれた「子供の命を助けてほしい」とのメッセージが拡散され、騒動に。意見を求められた吉村洋文府知事は「重大な事故が起きている。やめるべきだ」と言い切った。結局、この3校はピラミッドを3〜6段に、タワーを3段に減らして実施した。

 ある学校の校長は「子供たちには成功させたいという強い思いがあったが、安全面を考えやむなく中止にした」と悔しさをにじませる。学校には5月27日に「地域はみな怒っている。低い段数で行ってほしい」との匿名の電話があったが、「安全に配慮すると丁寧に説明した」(校長)。練習中も大きなけがはなかったが、運動会3日前の30日時点での完成度を見て校長が「当日、安全に成功させられそうにない」と判断、児童に減段を伝えたという。「児童は皆残念がっていたが、皆の安全を考えての決断だと納得してもらった」と校長は話す。

 教育現場では、運動会の目玉演目として、組み体操を支持する声は根強い。「全員で組み体操の練習を重ねることで信頼感が醸成され、不登校がちだった生徒が学校に戻ってきた」という校長経験者や、「長年の伝統となっており、子供があこがれを持っている。その意欲をくんでやりたい」と話す教員も。「運動会本番、段を積み上げては失敗を繰り返す子供を懸命に応援した。成功したときは感動したし、周囲の歓声もすごかった」と振り返る保護者もいる。

 一方で、このとき、23〜26年度には組み体操の練習中に年間8000人を超える児童生徒がけがをしていたことも判明した。

 28年にスポーツ庁が「安全にできない場合は実施を見合わせるべきだ」とする通知を出し、八尾市は同年、ピラミッドは5段、タワーは3段までとする段数制限を設けた。大阪市は同年度からピラミッドとタワーを全面禁止。しかし東大阪市では制限を設けておらず、昨年はピラミッドの練習中、1人が首を捻挫したという。

 大阪府教育庁は今週中にも、政令市をのぞく府内自治体の教育委員会に注意喚起の文書を送付する方針。酒井隆行教育長は「集団で成し遂げる教育的意義は理解できるが、高さにこだわらず、安全に軸足を置くよう各自治体に再考を促したい」と説明。ただ、段数制限や中止といった踏み込んだ内容にはならないという。

 教育現場の事故に詳しい名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)は「学校と市民との間の感覚のずれが大きすぎる。感覚が鈍すぎると言わざるをえない」と強調。今回の騒動について「市民がインターネットで声を上げ、段数を減らせたことは大きい。教育現場はもう気づくべきだ」と話している。

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