性的虐待の内部告発、記録持ち出しで処分は「違法」 男性職員の処分取り消しが確定
京都新聞 2021/2/1(月) 21:03配信
児童養護施設で起きた性的虐待事件を内部告発するために京都市児童相談所(児相)の相談記録を持ち出し、懲戒処分を受けた男性職員(49)が市に処分の取り消しを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は1日までに、市の上告を受理しない決定をした。市に処分の取り消しを命じた二審大阪高裁判決が確定した。決定は1月28日付。
一審京都地裁と二審の両判決によると、男性は児相に勤務していた2015年、左京区の児童養護施設に入所する少女が施設長から性的虐待を受けた事件で、母親からの相談が放置されているとして、少女に関する記録を閲覧したり、印刷して自宅に持ち帰ったりして、市の公益通報外部窓口に通報した。市は機密性の高い記録の閲覧や持ち出し行為が懲戒事由に当たるとして3日間の停職処分にした。
一、二審判決とも、記録の持ち出しについて公益通報や証拠保全、自己防衛などの目的を認定した上で、市の懲戒処分は「裁量権の逸脱や乱用の違法がある」と判断。市側が上告していた。
決定を受けて京都市内で会見した男性は「自分は正しいことをやったと信じているので負けるわけがないと思っていたが、裁判は初めてなので不安もあった」と打ち明け、「公益通報者保護法があるのだから、通報者が裁判に訴えなくても法で救われるようにしてほしい」と訴えた。男性の行為が公益通報目的ではないと主張した市に対しても「私が行った公益通報の内容が客観的にどうかを外部の専門家を入れて検証してほしい」と求めた。
京都市の藤田洋史人事部長は「適切な処分の実施に努めてきたところであり、主張が認められなかったことは残念。今後とも、服務規律違反を行った職員に対しては厳正かつ公正に対処する」とコメントした。
児童養護施設内で起きた性的虐待事件を内部告発するために京都市児童相談所(児相)の相談記録を持ち出すなどしたことが不正な行為だとして、男性職員(49)が市から受けた懲戒処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が19日、大阪高裁であった。山田陽三裁判長は、市に懲戒処分の取り消しを命じた一審京都地裁判決を支持し、市側の控訴を棄却した。
男性は児相に勤務していた2015年、児童養護施設に入所する少女の母親の相談が放置されているとして市の公益通報外部窓口に通報した。その前に事実確認のために少女に関する記録を閲覧したり、印刷して自宅に持ち帰ったりした行為で停職3日の懲戒処分を受け、処分取り消しを求めて提訴。昨年8月の一審判決で男性側が勝訴し、市側が控訴していた。
山田裁判長は判決理由で、一審判決と同じく、担当外の児童情報の閲覧は禁止されていなかったと認定。記録の持ち出しは懲戒事由に当たるとしながらも、内部通報に付随するものとの見方を示した上で、「証拠保全や自己防衛が目的で、強く非難すべきとは言えない」と述べ、市の懲戒処分は「裁量権の逸脱や乱用の違法がある」と結論付けた。
判決後、大阪市内で会見した男性は「不正を見つけた人が声を上げないと世の中がだめになる。判例をつくることで公益通報の制度も修正されていくと思う」と期待を込めた。
京都市の藤田洋史人事部長は「市の主張が認められなかったことについて誠に遺憾。今後、上告する方向で考えているが、判決内容を分析し、早急に対応したい」とのコメントを出した。
事件はたぶんこれ
児童養護施設に入所していた少女にみだらな行為をしたとして、京都府警少年課と下鴨署は8日、児童福祉法違反の疑いで、京都市左京区の社会福祉法人「迦陵園(かりょうえん)」の施設長、松浦弘和容疑者(54)を逮捕した。「身に覚えがない」と容疑を否認している。
逮捕容疑は、平成26年8月5日、滋賀県長浜市内のキャンプ場にある宿泊施設で、養護施設に入所していた京都市西京区の女性=当時(17)=が18歳未満と知りながら、みだらな行為をしたとしている。
下鴨署によると、松浦容疑者は、入所児童らと1泊2日のキャンプ中に「部屋に来ないか」と女性を呼び出し犯行に及んだという。女性の母親から市に相談があり、問題が発覚した。
市によると、迦陵園は、家庭で虐待を受けるなどした2〜18歳の児童を受け入れる児童養護施設。松浦容疑者は、25年11月から施設長を務めていた。
同園総務部長の男性(62)は「状況を確認中でコメントは差し控えたい」としている。