セクハラ教員に「性的な意図ない」と否認されると…難しい事実認定、懲戒処分につながらず
読売新聞オンライン 2021/4/27(火) 11:29配信
埼玉県内でわいせつ事案を起こした教職員の懲戒処分が相次ぐ中、児童生徒へのセクハラ発言も起きている。身体的接触がある場合と比べて被害は軽いと受け止められがちな上、事実認定が難しく、ここ数年はセクハラ発言のみを理由に処分されたケースはない。だが、被害者の心身に与える影響は深刻で、専門家は「被害者に寄り添った事実確認を行い、セクハラ発言に対しても厳しい対応が可能となるよう、制度の見直しが必要だ」と指摘している。
■性行為を示唆
県東部の公立中学校に通っていた女性(10歳代)は2017年秋、英語の男性講師(20歳代)に、英語民間試験に向けて「面接の練習をお願いできませんか」と依頼した。
何回か指導を重ねたある日、講師は女性に性体験の有無などを尋ね、性的関係になることを示唆して連絡先の交換を求めてきた。
「そんな目で自分を見ていたなんて」。女性は講師への嫌悪感から、周囲との会話もなくなり、食欲もなくなって給食にも手をつけなくなった。心配に思った友人に声をかけられたのをきっかけに、クラス担任に相談した。
女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。学校生活も一変した。「もう忘れなさい」と繰り返す担任の言動に傷ついて教室に行けなくなり、逃げ場にしていた保健室への入室も禁止され、やがて登校できなくなった。英語の勉強を始めると講師の発言や顔がフラッシュバックしてきて、勉強が手につかなくなった。
高校進学後も事実無根のうわさが流れ、登校できない日があった。女性は今も秋になると、睡眠薬がないと眠れない日があるという。
■懲戒にはならず
県教委の懲戒処分基準では、児童生徒への性的な発言について「停職または減給、悪質なら免職」と規定している。
セクハラ発言は学校側や、学校のある市の教育委員会にも伝わった。しかし、間もなく依願退職した講師に対し、懲戒処分が下されることはなかった。講師への聞き取り調査での発言から「不適切な発言は1回だけで、他に不祥事を起こしていないため、懲戒にはあたらないと判断した」とも、市教委担当者は説明する。
県教委によると、17年度以降、わいせつ事案で懲戒処分を受けた県内の教職員は計43人に上る。ただ、いずれもキスや盗撮などの行為を理由としており、セクハラ発言のみを理由に処分したケースはない。県教委の関係者は「仮に発言を認めても『性的な意図はなかった』と否認されると、よほどの証拠がない限り、懲戒にしにくい」と明かす。
■説明できない
セクハラ被害を受けた児童生徒からの相談を受け付けるNPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」には、年間で約130件もの相談が寄せられる。このうちセクハラ発言に関するものは2割ほど。「いい胸だ、と言われた」「いい尻してるねと言われ、触られた」などの内容もある。
亀井明子代表は「行為を伴う事案に比べて、発言は軽く捉えられがちだ。だが、セクハラ発言により深く心に傷を負っている子どももいる」と指摘する。「心の傷が深く、学校や教育委員会に対して自身の被害を十分に説明できない子どもは多い。専門家を含む第三者機関が相談を受け付け、事実関係を調査するよう、仕組みを改めるべきだ」と主張している。