顧問の体罰で息子はPTSDに 母「教育の名を借りた人権侵害」

顧問の体罰で息子はPTSDに 母「教育の名を借りた人権侵害」
毎日新聞 2021/5/26(水) 10:00配信

 長野県内の高校に通う息子が、中学生の時に剣道部の顧問から受けた体罰に苦しみ続けていると訴える母親の手記が、26日発刊の「長野の子ども白書」に掲載された。母親は、手記を通じ「多くの人に事実を知ってもらうことは、息子の名誉を回復することにつながる。息子が前を向くきっかけにしたい」と願っている。【坂根真理】

 ◇「長野子ども白書」に手記

 記者が5月下旬、取材に訪れると、母親は、剣道の大会で優勝した時のトロフィーや盾が並ぶ自宅の一室で悔しさをにじませた。「高3になっても、中学時代の体験を引きずり、目標を持てず時間が止まったままです。本人は相当深い傷を負っていて、今も前に進めず苦しそう」

 息子は元顧問による体罰の後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などを発症し、3年たった今も学業や生活に支障を来している。元顧問から浴びせられた暴言などが毎日のようによみがえるという。家族にいら立ちをぶつけることもある。

 約10年前、小学1年生で剣道を始めた。恩師や仲間と共に剣道に打ち込む充実した日々を送り、県内の大会で優勝するほどの実力を身に付けた。公立中の剣道部では主将を務めた。そして中学3年間の集大成として、夏の県大会に向けて練習に励んでいるように母親には見えた――。

 ある日、母親が仕事を終えて帰宅すると、息子がボロボロと涙を流しながら、「死んで終わりにしたいと思った」と打ち明けた。

 あふれる涙を抑えながら、声を絞り出した。元顧問から「バカキャプテン」「クソ」とみんなの前で呼ばれ、「消えろ」「必要ない」と人格を否定される言葉を浴び続けた経験を語った。

 夏の県大会の直前に練習を禁じられ、それでも練習場に向かうと、他の部員から一方的に攻撃を受けるだけの役割をさせられた。「道具のような役割をさせられて屈辱的な思いをした」という。息子は「帰り道に川に飛び込んで自殺しようとした」とまで語った。

 指導によって追い詰められた子どもたちが自殺することが、たびたび問題になる。母親は「指導死といわれる自殺は、教師から逃げることのできない生徒が最後のエネルギーを振り絞り、苦しみの暗いトンネルから出ようとする行為なんです。『死ねばこれで終わりにできる』と言う息子の思いがひしひしと伝わってきた」と振り返る。

 体罰の訴えを受け、県教委は元顧問を減給10分の1(2カ月)の懲戒処分にした。元顧問は県教委の調査に対し「大会まで残された時間が少なく焦りを感じるようになり、自制することができなかった」と話したという。ただ、県教委が公表した主な処分理由は、元顧問が防具をつけていない部分を竹刀で複数回たたくなどの体罰を加えたということだけだった。

 母親は、十分な調査をしてすべての体罰を明らかにし、再発防止につなげてほしいと、今年3月、県の第三者機関「子ども支援委員会」に人権救済を申し立てた。

 手記を寄せたのは、子どもを取り巻く課題をまとめた「長野の子ども白書」の2021年版。白書のことは新聞記事で知り「手記を書きたい」と連絡を取った。体罰が子どもに与える影響の深刻さを知ってもらい、子どもの人権が守られる教育現場になってほしいとの思いからだ。

 手記は「子どもの人権はどこで守られるのか 『教育』の名を借りた壮絶な人権侵害」のタイトルで、4ページにわたって体罰の経過や親子の苦しみを記した。「最大の人権侵害は、教師が身勝手な理由で部員を活動から排除し、総仕上げに向かっていた練習の場を奪ったこと」と訴える。

 取材に対して、母親は語る。「生徒と教師という絶対的な主従関係の中で、子どもは声を上げられなかった。親に伝えれば、顧問から『もう教えてやらない』と言われたり、執拗(しつよう)に暴言を受けたり、活動から排除されたりする不利益を受けるのを恐れ、顧問に服従していった。体罰や暴言は教員による、教育の名を借りた人権侵害だ。子どもの人権は教育現場でこそ守られなければいけない」

 一方、県教委は取材に対し「子ども支援委員会が調査中のため、コメントを差し控えたい」としている。

   ◇

 子ども白書は2012年から毎年5月に発行し、今年で10号の節目を迎えた。子どもや若者を取り巻く現状や課題を多くの人に知ってもらおうと、子どもを守る市民団体の関係者らが白書を発行してきた。

 今回の白書の執筆者は、学校の教員や専門家ら100人を超える。4つの特集を組み、教師から体罰を受けた生徒の母親の手記は特集「子どもの権利を守るとは」に盛り込まれ、他に子どもの権利に関する条例を作った松本市の取り組みなども紹介する。コロナ禍の学校現場などで見えた子どもたちの実態や、子育て家庭の貧困の広がりなども特集した。

 編集委員会事務局代表の小林啓子さんは、「児童憲章が定められてから70年の今年、その理念に立ち返るべきだ。子どもの権利条約を生かした政策や事業を行うなど具体化していかないと、子どもを取り巻く問題は解決しない。白書をきっかけに子どもについて複合的に考えてもらいたい」と話した。

 白書はA4判256ページ、2000円(送料1冊370円)。サイト()から注文できる。問い合わせは事務局(026・244・7207)。

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この件は、おそらく次の2件に該当すると思われます。長野県で44、5歳の剣道部顧問を見かけたら気をつけましょう。

 申立書によると、男子生徒が中1だった16年10月ごろから元顧問(既に他校に異動)から足や腰などを竹刀で打たれるようになった。次第にエスカレートし、18年に剣道部の主将となった男子生徒や男子部員に対し、元顧問は県大会の直前に練習を禁じた。また稽古(けいこ)をしようと練習場に向かうと「お前らはそこに立て」と並ばせ、女子部員から一方的に技を受ける役割をさせた。
 男子生徒は当時の心境について、手記で「3年間部活を頑張ってきたその最後の集大成の場で、排除されたこと、練習ができなかったこと、(女子部員の技を一方的に受けるなど)先生から差別的な扱いを受けたことが、言葉にできないほど、悔しく、辛く、悲しい。体罰や暴言なんかより、ずっと辛いことだった」と振り返る。
 他にも、元顧問が県大会直後に危険な技(突き飛ばし)を行い、強い力で突き飛ばされた衝撃でけがをしたり、「馬鹿キャプテン」「このクソが」「ぶっ殺すぞ」「やめてしまえ」などの暴言を浴びたりした。
 男子生徒は元顧問への恐怖心を募らせた。「死んだらもう終わりにできる」。下校途中にさしかかった千曲川に架かる橋から飛び降り自殺を図ろうとし、兄に包丁を向けるなど精神的に不安定になっていったという。心療内科を受診した男子生徒はPTSD(心的外傷後ストレス障害)などと診断された。
 今回の申し立てをしたのは、県教委や学校側への強い不信感がある。県教委は19年3月、元顧問が防具を付けていない部分を竹刀で複数回叩くなどの体罰を加えたとして、減給10分の1(2カ月)の懲戒処分にした。元顧問は「大会まで残された時間が少なく焦りを感じるようになり、自制することができなかった」と調査に対し話したという。だが、県大会前の練習禁止や、差別的指導は公表されず、男子生徒は「自分たちの正義と名誉は奪われてしまった」と感じた。
 保護者は学校側に詳細な説明を求め、何度か話し合いの場をもったが平行線をたどった。県教委に対しては再調査を求める要望書を送付したが、再調査を拒絶された。

東信地方の中学校に勤務する男性教諭が、部活動中に生徒の体をたたいたり暴言を吐いたりしたとして、きょう付けで減給処分を受けました。
減給10分の1、2か月の懲戒処分を受けたのは、東信地方の中学校に勤務する42歳の男性教諭です。
県教委によりますと、男性教諭は去年4月から7月にかけて剣道部の指導中に、練習への取り組みが不十分だったなどとして、2、3年生の部員9人に対して頭を竹刀でたたいたり、「バカか」といった暴言を浴びせたということです。
学校が実施した体罰に関するアンケートで明らかになったもので、県教委の聞き取りに対し男性教諭は「生徒の目標をかなえてやりたかった。心から申し訳なく思っています」などと話しているということです。

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